トイレの介護リフォーム。手すりや便器交換、住宅改修で安全で快適な環境に

トイレの介護リフォーム、手すりや便器交換。安全で快適な環境に 住宅改修
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役 遠藤哉

この記事を監修したのは

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士

遠藤 哉

年齢を重ねると、便器からの立ち座りは大変。多くの方からそんな声を伺っています。

トイレは日常生活において不可欠な場所であり、その利便性は高齢者や介護が必要な方にとっても特に重要です。トイレの介護リフォームは、安全かつ快適なトイレ環境を整え、自立した生活を支援するために欠かせません。この記事では、介護保険を活用してトイレを安全な環境へとリフォームする方法についてスポットを当てます。

トイレの介護リフォームは、高齢者や障害を抱える方々にとって、日常生活の質を向上させる重要なステップです。しかし、どのようにリフォームを進めれば良いのか、誰に相談したらいいのか、多くの方が疑問や不安を抱えています。

この記事で介護保険対象となるトイレのリフォームに焦点を当て、具体的な対策や注意点について詳しく解説します。介護保険を上手に活用し、安全な環境を手に入れましょう。また、介護保険対象外でも効果的なリフォームもありますので、対象外のリフォームについても紹介します。

【この記事をお勧めしたい人】

  • トイレでの立ち座りが大変になってきている方、及びそのご家族
  • トイレへの移動が多く、負担を感じている方、及びそのご家族
  • トイレの住宅改修を提案したいケアマネジャー・福祉用具相談員・リフォーム業者の皆様

【この記事で解説していること】

  • 手すりの取り付けにはいくつかのパターンがありますが、利用する人の状態に合わせ、最適な手すりの設置が必要です
  • トイレの住宅改修では、和式便器から洋式便器への交換、ドアノブの変更、扉の変更、床材の変更、段差解消などが介護保険対象となります
  • 介護保険対象外ですが、ペーパーホルダーの変更、暖房器具、呼び出しブザーなどがあるとより安全性・快適性が高まります

トイレの介護リフォームが重要な理由

トイレの介護リフォームは在宅で生活される高齢者にとって非常に重要です。

その理由は大きく3つあります。

  • 便器への立ち座り・上下動する動作が発生すること
  • 一日の利用回数が多いこと
  • 介助者にとって介助しにくい場所であること
失敗しない介護リフォーム

ひとつは、トイレは便器へ座る・便器から立つという上下動の動作が必ず発生する場所からです。上下動の運動が発生すると、膝への負担なども生じやすく、転倒のリスクも高まります。

ふたつめは、必ず頻繁に利用する場所であるからです。トイレの利用回数は人により異なりますが、加齢に伴って膀胱内に貯留できる水分量は少なくなることから、一日の排尿回数は多くなります。一日に8回を超える回数の排尿をする場合は頻尿とされ(*1)、特に夜間の排尿回数が増える傾向にあります。トイレの回数が増えることで、トイレまでの移動、ドアの開閉、ズボンの上げ下ろし、トイレでの立ち座り動作など、排泄という行動に付随する様々な動作が必要になります。これらの動作で転倒するリスクが発生します。

三つめは、トイレは狭い環境なので、介助者が介助しにくいことです。本人がトイレで排せつ動作をするということはもちろんですが、介助者が介助しやすい環境であることも必要です。狭い環境で無理な姿勢で介助することによる腰痛などが発症しやすいのもトイレの特徴です。

このような特徴を持つトイレだからこそ、環境を改善することで得られる効果も大きいです。

国土交通省の住宅市場動向調査によると、リフォームを行った部位では外壁に次いで2位がトイレで22.6%となっています(*2)。それだけトイレのリフォームについての社会の関心は高く、ニーズがあることもわかります。

これは社内独自データとなりますが、いえケア運営会社がフランチャイズ本部を行う「介護リフォーム本舗」全店舗の場所別相談件数(2022年1月~12月)を見ると全498,230カ所の相談のうち、86,556カ所がトイレに関する工事の相談となっています。全体のおよそ18%はトイレの介護リフォームの相談で、最も希望の多いリフォーム場所であることがわかります(*3)。

このような理由から、介護リフォームを検討する際には、必ずトイレのリフォームを視野に入れておくことをお勧めします。

ここからは、具体的なトイレの介護リフォームのポイントについて紹介します。

手すりの取り付け

トイレの介護リフォームで最も多いと言われているのは手すりの取り付けです。

手すりの効能として、低下した下肢筋力を補うという点があります。手の力を使って足の力を補う・手の力を使って姿勢を整える・手すりを使って方向転換をする、などの動きを助けることができます。また、他の工事と比較して、費用負担も少なく、介護保険も適用できることから、トイレでは手すりの取り付け工事が非常に多く行われます

トイレ設置の一般的な手すりパターン4つ

トイレの手すり設置にはいくつかの代表的なパターンがあります。便器の立ち座りに限定して手すり取付のパターンを紹介します。以下の図をご参照ください。

縦と横を組み合わせて、アルファベットのLの形にするいわゆる「L型」と言われる手すり(図の左上)が、一般的に知られています。

ただ、必ずしもL字型が正解かというと、そうではありません。ご本人の力の使い方、疾患、またはトイレの形状などによって、最適な方法を見つけることが必要です。

他にも、縦のみの手すり、側方の横手すりを両側につけるというケースもあります(上の図解 右下パターン)。
また、体の横ではなく、正面前方に横手すりを取り付けるというパターンもあります。例えばトイレ座面に座ったときに前方のスペースがなく、前傾姿勢になって立ち上がることができない場合には、前方少し高めの位置(座面に座ったときの胸から肩の高さが目安)に横手すりを取り付けると立ち上がり動作がスムーズになります。

トイレ手すり施工事例

トイレ手すりの設置場所の目安

具体的な設置場所の目安は以下の図解で紹介します。

この図はあくまで目安です。対象者に合わせて適切な位置を設定しましょう。

横手すりの高さは便座の高さから200~250mmの高さに設置します。横手すり部分は座るときに体を支えるためにも使うので、座る動作の時に力の入れやすい高さに設定されます。

横手すりの先端・縦手すりの位置は、便器の先端から200~300mmの位置と言われています。縦手すりをつかむ位置が自分の体よりも前にあることで、上体を前傾させながら立ち上がる動作ができます。立ち座りの動作がスムーズにできるため、このパターンはよく見かけます。

実はこのパターンで手すりを設置するときに、よくあるのがペーパーホルダー(紙巻き器)と場所の取り合いになることです。ペーパーホルダーが設置してある場所は、基本的に手を伸ばしやすい場所なので、手すりに適した場所と被ってしまうことが多いのです。ペーパーホルダーがあるから手すりがつけられない、というときは、ペーパーホルダーの場所を少しずらしてもらうことができないか相談してみるといいでしょう。

繰り返しになりますが、これらはあくまで一般的な目安であって、これが正解ではありません。麻痺はあるのか、手で引っ張る力と押す力のどちらが使いやすいのか、普段どこに手をついているのか、立ち座り動作をするときに足の位置がどこにあるのか。様々な情報を含めて判断し、その人にとって最も使いやすい位置・形状に手すりを設置することで、より高い効果を発揮します。

理学療法士やケアマネジャー、福祉用具専門相談員、介護専門のリフォーム業者等の専門家に動作を確認してもらいながら、手すりの設置位置を検討しましょう。

トイレリフォーム施工事例

その他のトイレ手すり

また、手すりは便座の立ち座りだけでなく、トイレ内の歩行・方向転換・ドアの開閉時の姿勢保持・ズボン上げ下ろし時の姿勢保持にも効果を発揮します。

レンタルの手すり

また、住宅改修で手すりを取り付けるという方法以外にも、レンタルの手すりを設置するという方法もあります。トイレ用のレンタル手すりには、便器に挟み込むタイプのフレーム型手すりと、床置き型の手すり、天井と床で突っ張るタイプの手すりがあります。

挟み込むタイプの手すり(写真参照)は床面の形状に問わず設置ができますが、掃除がしにくい欠点があります。
床置き型は置くだけで簡単に設置ができ、掃除もしやすいのですが、タイルなど床面が不安定な場所にの設置には適していません。
突っ張り型の手すりは立ち上がり動作には便利ですが座る動作でバランスがとりにくいことや、狭いトイレスペースの中で最適な位置に設置することが難しい場合などもあります。福祉用具レンタルで一度試してみて、使い勝手を確認してから住宅改修で工事をすることもできますので、一番合った方法を考えましょう。

ただし、手すりは多ければ多いほどいいというわけではありません。排せつに関する一連の動作が一人でできなくなった時、トイレの動作には介助が必要になります。トイレの狭いスペースの中では介助者が介助するスペースも限られ、介助者が無理な姿勢で介助することにより腰痛や転倒などの事故が発生するリスクもあります。不要な手すりによって介助がしにくくなる弊害を生む場合もありますので、その点は注意しましょう。

介護保険では手すり設置以外にもトイレのリフォームには様々な種類がありますので、次の項目で紹介します。

介護リフォームで使われる手すりについての詳細はこちらの記事にまとめていますので、ご参照ください。

介護保険適用の介護リフォーム

手すり以外に介護保険が適用される介護リフォームについて紹介します。介護保険の住宅改修として保険適用となるのは、以下の6項目です(*4)。

  • 手すりの取り付け
  • 段差の解消
  • 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
  • 引き戸等への扉の取り替え
  • 洋式便器等への便器の取り替え
  • その他(1~6の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修)

介護保険の住宅改修の概要については、こちらの記事からご確認ください。

便器の交換(和式便器から洋式便器に)

介護保険では和式便器を洋式便器に変更することができます。

相談者
相談者

和式トイレなんてほとんど見かけることはなくなったんですけれど、便器交換ってすることあるんですか?

株式会社ユニバーサルスペース<br>代表 遠藤哉
株式会社ユニバーサルスペース
代表 遠藤哉

介護保険住宅改修の専門業者として全国フランチャイズ展開している介護リフォーム本舗としては、2022年の1年間で185件(*5)、和式から洋式への便器交換を行っています。件数としては少ないですが、まだまだ和式の便器を使われているご家庭もあります。

和式便器では、排便時に腹圧をかけやすいことなどのメリットもあります。ただ、しゃがんだ姿勢を保持しなければいけないため、転倒のリスクが高く、洋式便器への変更が推奨されます。

便座の変更(補高便座)

便座・座面を変更することもひとつの方法です。これは介護保険の住宅改修ではなく、特定福祉用具の購入という手続きになりますが、便座の座面を高くする補高便座を購入することができます。

便器の座面が低いために、立ち座りの動作が大変な方は、便座の座面を高くすることが可能です。クッション性の高いやわらかいタイプの商品や、寒い冬に座ってもひんやりしない暖房付き便座、ウォシュレット機能付きの補高便座もあります。

ただ、あまり座面を高くし過ぎると、しっかり足がつけなくなってしまい、かえって立ち上がりにくくなるだけでなく、足で踏ん張って腹圧をかけて排泄するという動作がしにくくなってしまうリスクもあります。立ち座りのしやすさだけでなく、排泄時の座位姿勢も含めて、適切な高さを見極めることが必要です。

パナソニックエイジフリーホームページより

床材の変更

トイレの床材がタイルなどの滑りやすい素材だと、転倒のリスクも高くなります。介護保険の住宅改修では滑りの防止のために床材を変更することが認められています。転倒しても衝撃を軽減するためにクッションフロアにすることが多いです。

また、場所がトイレですので、掃除のしやすさや防水・抗菌・消臭などの観点も含めて床材を選択することをお勧めします。

扉の交換とドアノブの変更

トイレの扉は一般的に外開きタイプの開き戸が多いです。ただ、トイレの開き戸を外から開ける際には一度体を引いて避ける動作が必要になることもあり、転倒のリスクが伴います。特に車いすの方は開き戸の開閉、ドアの通過が困難になる場合が多いです。ドアを開き戸から引戸に変更することで、開閉しやすくなるとともに、車いすでの通過も容易になります。引戸同様、アコーディオンカーテンも有効なひとつの解決策です。

内開きの開き戸の場合は、緊急時の対応に課題があります。トイレ内はスペースが狭いので、倒れてしまった場合、助けようと扉を押しても体が邪魔になり、いくら押しても扉が開かないという状況も起こりえます。また、トイレ内で内開きの扉を開いて外へ出るためには狭いスペース内で体を避けなければいけないため、さらに転倒のリスクが高まります。

ドアノブを変更することも認められています。ドアノブを握って回すという細かい動作が苦手な方には、写真のようなレバーハンドルに変更することがおすすめです。力を入れにくい関節リウマチの方や、細かい動きが難しくなるパーキンソン病などの方にはドアノブ交換が効果的です。ドアノブにも様々な種類がありますが、トイレの場合は、鍵をかけていることで入室・空室がわかるトイレ用の表示錠を選択することが一般的です。

トイレの段差解消・敷居撤去

トイレの入口に段差がある場合には、段差を解消することもできます。例えば、敷居がある場合には敷居を取り除いたり、歩行器や車いすでトイレに入ることができるようにスロープを取り付けることや、床面をかさ上げすることも介護保険の住宅改修対象です。

ここまで介護保険でできるトイレの住宅改修の項目を紹介しました。次の項目では介護保険以外の介護リフォームについて紹介します。

介護保険以外の介護リフォーム

介護保険の対象でなくても効果的な介護リフォームもあります。ここからは介護保険対象外のトイレリフォームの内容を紹介します。

ペーパーホルダーの変更

ペーパーホルダーから紙をちぎる動作が難しい方もいます。例えば、片手に麻痺や欠損、可動域制限がある方は、片手だけでペーパーホルダーから紙を切らなければいけません。この動作が簡単にできるように、片手で紙を切りやすい片手用のペーパーホルダーも売っています。

その他、ペーパーのセットがしやすいタイプ、静音タイプなど、様々なタイプのペーパーホルダーがあります。

ウォシュレットの設置

関節可動域が狭いために上手に拭くことができない、手に力が入りにくい、など、ペーパーでのふき取りに困難さを感じる方もいます。ウォシュレットを設置することで、拭く動作が十分にできなくても、清潔にすることが可能です。

補高便座の項目でも紹介しましたが、補高便座にウォシュレットが付属しているものもあります。補高便座(特定福祉用具)として購入すれば、介護保険を使い、1割から3割の自己負担で購入することができます。

緊急呼び出しボタン

トイレでの急な体調不良時に呼び出しボタンを設置することもできます。トイレ内で排便のために力を入れていきむ行為は血圧を上昇させ、排便に伴って血圧は急低下します。トイレではこのように排便前後に血圧の変動が起きやすく、体調急変のリスクが高まります

体調不良時に緊急コールができ、家族を呼べるようにしておくことも安全性を確保するひとつの方法です。

トイレ用暖房

冬場にはトイレ用の暖房器具があると便利です。トイレは部屋と異なり冬場の気温はぐっと下がります。なおかつ、座面上では下半身を露出するのでさらに体幹は寒く感じます。いきむ行為で血圧が上がることもお伝えしましたが、寒さも加わるとさらに血圧が上がり、体調への影響が懸念されます。

そこで、トイレ用の暖房器具を用意しておく方が増えています。トイレに入るたびに電源のオンオフをするのが面倒なので、トイレへの入室を感知し、電源が自動でつく人感センサータイプの暖房機器を使うことをお勧めします。

トイレのスペース拡張

車いすでトイレ内へ移動される方の場合、車いすで便器の近くまでの移動や、車いすの方向転換ができるよう、トイレ内のスペースを広くとる必要があります。介助者が必要な場合は介助者のためのスペースも確保する必要があります。

トイレを新設する場合にはスペースを広くとることもできますが、既存のトイレでスペースの拡張は難しいという問題があります。もし拡張が可能な場合には、どの方向からアプローチし、どのような移乗動作をするのかを念入りに想定しながら計画を立てることが必要です。

介護保険対象外のトイレリフォームを紹介しました。上記は介護保険の住宅改修が適用できませんので、全額自己負担となります。費用対効果を考え、必要な項目を検討しましょう。

まとめ

トイレの介護リフォームについて情報をお伝えしました。

頻回に利用する場所なだけに、安全性に配慮した環境を整えることが重要です。もし、トイレに行くことが難しくなったらポータブルトイレにすればいい、と考えている方もいるかもしれません。確かにポータブルトイレにすれば移動の負担は軽減されますが、やはり寝室やリビングなどの生活の場で排泄するのと、トイレまで自分で行き排泄することでは、生活の質(QOL)が大きく異なります。

可能な限りトイレで排せつができるよう、トイレの介護リフォームで環境を整えていきましょう。

参考資料

*1 頻尿とは:日本泌尿器科学会

*2 国土交通省 令和4年度住宅市場動向調査報告書

*3 介護リフォーム本舗 2022年施工箇所別相談件数(独自データ)

*4 介護保険制度解説ガイドブック:WAMNET

*5 介護リフォーム本舗 2022年施工内容別施工件数(独自データ)

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役 遠藤哉

この記事を監修したのは

遠藤 哉

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士

大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約120,000件を超える。