この記事を監修したのは
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
遠藤 哉
介護リフォームは、高齢者や介護が必要な方々の生活環境を改善し、安全性を確保するために重要です。床面の滑り防止は転倒リスクを大幅に軽減し、日常生活に安心感をもたらします。介護保険の住宅改修を利用することで、屋内通路から階段、浴室、屋外まで、さまざまな場所で滑り止めの対策が可能です。ここでは、滑り防止のポイントを丁寧にご紹介し、快適で安全な居住空間をつくるためのアイデアを探っていきましょう。
【この記事を読んでほしい方】
- 床が滑りやすくて転びそう、と心配を感じている方
- 畳にタイヤが沈み込んで車いすの移動で困っている方
- 介護リフォーム・住宅改修を検討している方
【この記事で解説していること】
- 床の滑りやすさは転倒の環境因子のひとつ
- 場所に合った床材を選択する必要がある
- 滑りにくくするだけでなく、移動の円滑化も介護保険の住宅改修の対象となる。
介護リフォームで滑りを改善する
滑りが転倒につながるリスク
転倒につながる環境要因の一つとして、床面の滑りやすさがあります。床面の滑りが転倒のリスクを増大させます。
高齢者が床で滑る要因として、以下のような状況が挙げられます。
筋力の低下に関しては、特に足の指の力が低下することによって転倒につながりやすくなります。通常、あまり意識することはないのですが、人間は足の指を使って地面をつかむようにしてグリップし、次の一歩を踏み出します。ところが、この足の指の力が衰えると、地面をしっかりつかむことができなくなり、踏ん張れず、転倒につながります。足の上りも悪くなり、すり足状になることも滑りによる転倒事故のリスクを高める要因となります。
また、体幹機能・姿勢のバランス能力の低下や、感覚の痺れなどにより、リスクや異常を察知することができずにそのまま転倒につながってしまいます。
これらのリスクを未然に防ぐためには、床面を滑りにくくすることが解決策として挙げられます。
バリアフリー法での推奨基準
バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)のガイドラインでは、床の滑りについて、「床の滑りの指標としてJIS A 1454(高分子系張り床材試験方法)に定める床材の滑り性試験によって測定される滑り抵抗係数(C.S.R)を用いる」と明記しています。このC.S.Rという基準で滑りの推奨値が示されています(*1)(*2)。
(1)履物着用の場合の滑り
床の種類 | 単位空間等 | 推奨値(案) |
---|---|---|
履物を履いて動作する床、路面 | 敷地内の通路、建築物の出入口、 屋内の通路、階段の踏面・踊場、 便所・洗面所の床 | C.S.R=0.4 以上 |
傾斜路(傾斜角:θ) | C.S.R-sinθ=0.4 以上 | |
客室の床 | C.S.R=0.3 以上 |
(2) 素足の場合の滑り(※ここでは大量の水や石鹸水などがかかる床を想定)
床の種類 | 単位空間等 | 推奨値(案) |
---|---|---|
素足で動作し大量の水や石鹸水などがかかる床 | 浴室(大浴場)、プールサイド シャワー室・更衣室の床 | C.S.R・B=0.7 以上 |
客室の浴室・シャワー室の床 | C.S.R・B =0.6 以上 |
(3)滑りの差
突然滑り抵抗が変化すると滑ったりつまずいたりする危険が大きいため、同一の床において、滑り抵抗に大きな差がある材料の複合使用は避けることが望ましい。
C.S.Rでは数字がゼロに近ければ近いほど滑りやすくなります。屋内の通路であれば、履物を吐いた状態で0.4以上が目安となります。浴室はより滑りにくい床面にすることが推奨されています。
介護保険の住宅改修でできること
介護保険制度の住宅改修で滑りの問題を解決することができます。
住宅改修の内容のひとつに「滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更」という項目があります(*3)。
滑りを防止するというだけでなく、移動を円滑にするという内容も含まれています。工事の内容について詳しくはこの後、場所ごとに詳しく説明してまいります。
介護保険では要支援もしくは要介護の認定を受けた方は、所得に応じた自己負担(工事費用の1~3割)で住宅改修を受けることができます。住宅改修の手続きや概要についてはこちらの記事で紹介していますのでご覧ください。
それでは工事について具体的な内容を紹介していきます。
床面滑り防止・移動の円滑化のための介護リフォーム
床の滑り止めといってもその目的によって使用に適した床材が異なります。場所ごとにどのような床材が適しているのかを紹介します。
浴室の介護リフォーム
床面がタイル敷きの浴室などは、床が滑るため転倒リスクが高まります。水に濡れるとさらに滑りやすくなります。浴室の転倒は大きな事故につながりやすく、より注意が必要です。
浴室用のクッション性に優れた床シートを設置することで滑りを防止し、転倒した際の衝撃も和らげることができます。床の水はけもよくなり、移動の安全性が高まります。また、タイルの冷たさなどを感じないように断熱効果の高い床材が使われ、滑りの防止とともにヒートショック対策としても効果があります。
浴室でよく使われる浴槽用の滑り止めマットがありますが、あれは床面に固定せず、置くだけの商品であるため、住宅改修対象としては該当しません。また、福祉用具としても保険対象にはならないので、全額自費で購入する商品となります。
浴室の介護リフォームについてはこちらの記事でまとめていますので、ご参照ください。
階段の介護リフォーム
階段で足を滑らせると、転落事故につながり、骨折など大きなダメージになるリスクが高まります。
そこで、階段の床板の先端(段鼻)に滑り止めの床材を設置する介護リフォームが効果的です。滑り止めがあることで、階段の下りで足を前に滑らせて下に落ちてしまう事故を防ぐことができます。テープなどで固定するパターンが多く、比較的安価にできる対策となります。
また、視力の低下した方が上から階段を見ると、板の先端・段差がどこにあるかわからず、誤って足を踏み外してしまうことがあります。先端に滑り止めがあることでどこが板の先端なのかを視認しやすくなり、足を踏み外して転倒する危険も軽減することができます。
階段の介護リフォームに関してはこちらの記事にまとめていますのでご参照ください。
居室・寝室の介護リフォーム
居室・寝室の床面リフォームで多いのは畳を別の床材に変更するパターンです。畳は柔らかく、衝撃吸収性に富むという特徴があります。その反面、高いクッション性により、タイヤが床に沈み込んでしまい、車いすを押すためには相当の力が必要になります。タイヤの摩擦で畳のダメージも大きくなってしまうことから、畳は車いすの移動には適していません。そこで畳からフローリングやクッションフロア、コルクマットなど、板製・ビニール製などの床材に変更する住宅改修が行われることが多いです。
これは「床面の滑りの防止」ではなく、車いす移動時の「移動の円滑化」として住宅改修が行われます。クッションフロアなどは動きにくさを改善するだけでなく、クッション性も高く、またデザインの選択肢が広いため有効な選択肢のひとつです。
実は畳から畳への床材変更も介護保険の対象となります(*4)。衝撃緩和型の畳が介護保険の対象として認められています。クッション性がありながらも床への沈み込みが少なく、車いすでもスムーズに移動ができることが特徴です。断熱性も高く、畳の香りも楽しむことができます。どうしても畳がいい、和室がいいという方にも適したリフォームができます。ただし、畳が古くなったから新しい畳にしたいという理由で住宅改修をすることはできませんのでご理解下さい。
「滑りの円滑化」として、床面をあえて滑りやすくするパターンが他にもあります。例えば、臀部を床につけて臀部を滑らせるようにして床を移動する方は、床が滑らないと移動ができなくなってしまうことや皮膚への摩擦が大きくなってしまう影響があります。この場合は床を滑りやすくする住宅改修が必要となります。
屋外の介護リフォーム
屋外では、敷地外に出るまでの通路の安全性が重要です。凹凸の大きな石畳、砂利道など、床面の状態が悪ければそれだけ転倒のリスクが高まります。車いすの移動であれば抵抗の大きな路面の移動は困難です。
屋外では雨や雪などの天候による問題も影響します。床面を滑りにくく、平坦にコンクリートなどで舗装することで滑りを防止することができます。通路面の水はけをよくすることも安全性を高めるための工夫です。
コンクリート舗装するのではなく、床材の上から強力な滑り止め剤を塗布することも介護保険で認められています。外観はそのままで、滑りにくい床面にすることができます。
他にも、寒冷地であれば路面が凍ってしまい、転倒の原因となります。氷が簡単に割れるようなゴム製の床材を設置することも介護保険で認めている場合があります。
屋外の介護リフォームについてはこちらの記事でまとめていますのでご参照ください。
場所ごとに床面の介護リフォームについて紹介しました。施工内容の対象可否判断については市町村によって異なる場合があります。市区町村の窓口に、状況も含めて説明し、確認しましょう。
まとめ
床面の介護リフォームについて紹介しました。
床面の滑り止めによって、転倒のリスクを軽減することも可能です。もちろん、床材を変更するだけでなく、手すり取付や段差解消なども組み合わせて、より安全な環境にしていくこともできます。
専門家と相談し、歩き方や移動方法などをよく確認し、その人の生活に合った住環境を作りましょう。
参考資料
この記事を監修したのは
遠藤 哉
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約120,000件を超える。
介護保険最新情報Vol.1059「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」の改正について
(住宅改修)
Q11 住宅改修の「滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更」について、居室を畳敷きに改修するにあたり、平成29年7月のQ&Aで示されている「転倒時の衝撃緩和機能が付加された畳床を使用したもの」について、どのようなものが該当すると考えられるか。
A 日本産業規格(JIS)A5917衝撃緩和型畳(床)に該当するものが考えられる。なお、当該JISに該当しない場合、改修される畳敷きの性能等を施工業者等から聴取等を通じて確認の上、居宅要介護被保険者の心身の状況を考慮したものであるか特に確認すること。