この記事を監修したのは
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
遠藤 哉
長い廊下、足が前に出ない。廊下の移動で息切れする。そんな悩みを持っている人はいませんか?
これまでトイレや浴室など、自宅内の設備に関する介護リフォームについて紹介してきましたが、多くの住宅では廊下を経由してそれぞれの場所にたどり着きます。廊下は移動距離が長いことも多く、そこで起きる転倒事故も少なくありません。
日常生活の中で利用頻度の高い廊下を改修していくことが生活の安全性を高めます。今回は廊下の介護リフォームに焦点を当てて、注意すべきポイントなどを解説します。
【この記事を読んでほしい人】
- 廊下の移動で転倒のリスクが心配な方とそのご家族
- 屋内の移動で不安な利用者を抱えたケアマネさん
【この記事で解説していること】
- 廊下の介護リフォームで得られる効果
- 廊下の手すり設置や床材変更、段差解消のポイント
- 介護保険対象外で重要なリフォームのポイント
廊下の介護リフォームによって得られる効果
すでに説明したように、各部屋は廊下を通してつながっています。一日に何度も使う利用頻度が高く、移動距離も長くなりやすい場所です。廊下の移動のしやすさが生活の安全性・快適性につながります。
いくらトイレを完全バリアフリーにリフォームしたとしても、そこにたどり着くまでには廊下を通らなければいけません。その廊下で転倒してしまっては元も子もありません。移動の動線全体を見たとき、廊下は欠かすことのできない重要なポイントであることがわかります。
特に車いすを使用する方にとっては、廊下の移動が障壁となる場合も多く、環境を整える必要があります。
これは社内独自データとなりますが、いえケア運営会社がフランチャイズ本部を行う「介護リフォーム本舗」全店舗の場所別相談件数(2022年1月~12月)を見ると全498,230カ所の相談のうち、60,674カ所が廊下に関する工事の相談となっています。全体のおよそ13%は廊下の介護リフォームの相談で、4番目に希望の多いリフォーム場所であることがわかります(*1)。
廊下の手すり取付
廊下に手すりを取り付けることで目的の場所に、より安全にたどり着くことができます。
距離の長い廊下を移動する際には、横手すりが有効です。立位バランスの保持や、足にかかる荷重を軽減することなど、手すりで果たす効果は非常に大きいです。
廊下に横手すりを取り付けるときのポイント
廊下に沿って横手すりを取り付ける場合は、できるだけ途切れさせないことがポイントです。
特に廊下の曲がり角などは、歩行のバランスを崩しやすく、手すりが途切れていると転倒するリスクが高くなります。握り替えで手すりを握り損ねるリスクもあります。曲がり角などは接続用の金具などを使って連続した手すりにするといいでしょう。
また、手すりの端がそのままに突出していると衣類の袖に引っかかるなどの危険もあります。また、手すりの終端がわからずに手を滑らせてしまう可能性もあります。特に視力の弱い方には注意が必要です。手すりの端部は曲げて壁方向に収めるか下向きに曲げるといいでしょう。
視力の弱い方にとっては手すりの色は重要な要素です。壁の色と手すりの色で一定のコントラストを確保することをお勧めします。詳細はこちらの記事をご参照ください。
関節リウマチの方など、手首や手指に変形や痛みを伴う疾患をお持ちの場合は、手すりを握って移動することが困難です。そこで、関節リウマチなどの方は手で手すりをつかむのではなく、肘を手すりに置いて支えながら移動するパターンが多いです。この場合、肘で支えるのに合わせた高さに手すりを設置する必要があります。通常よりも高い位置に設置することで安定した歩行が可能になります。
また、その際の手すりの形状は太めの手すりか上部が平らになっている平手すりにすることで、面で支えることができ、より負担のない歩行が可能になります。
扉や押入れ、階段があって手すりが途切れてしまうこともあります。手すりが途切れると困る場合には、跳ね上げ式(遮断機式)や取り外し可能な手すりを選択することもひとつの方法です。
廊下に縦手すりを取り付けるときのポイント
横手すりではなく、廊下に縦手すりを取り付ける場合もあります。
横手すりを使って廊下を並行移動するときは手すりを「握る」というよりも「擦る」用途で使うことが多くなります。反対に縦手すりは「握る」という用途で使われます。
縦手すりを使うときは、手すりを握って方向転換をする場合や、ドアの開閉をする場合などに主に使われます。方向転換でバランスを崩しやすい方や、敷居や段差をまたぐ際の足を上げる動作でバランスを崩しやすい方には、高い位置でしっかり握れる縦手すりが非常に有効です。
疾患や障害などを踏まえた上で、どの場所にどの手すりが適しているのか、専門家等相談しながら設置しましょう。介護リフォームに使われる手すりについてはこちらの記事でまとめていますのでご参照ください。
介護保険で廊下の介護リフォーム
他にも介護保険対象となるおすすめの住宅改修がありますので提案します。
段差の解消・敷居の撤去
廊下から各部屋へ移動する際に、段差や敷居を超えなければいけない場合があります。この段差や敷居で躓いて転倒するリスクは非常に大きいです。
小さな段差だとしても無視はできません。大きな段差であれば意識して足を上げることができますが、小さな段差にはあまり意識が行き届きません。そして高齢者は、筋力の低下や疾患、前傾姿勢が強くなることによって、足が上がりにくく歩行がすり足気味になる傾向があります。本人が無自覚なこともあり、思っていた以上に足が上がっておらず、小さな段差に躓くというケースが非常に多いのです。
小さな段差でも無視できるものではなく、段差には転倒リスクがあると考えましょう。
床面のかさ上げや敷居の撤去などを通して、廊下と各部屋の高さをフラットにすることができれば理想です。これらの工事は介護保険対象になるので、段差が心配な方は検討してみるといいでしょう。
廊下の滑り止め
廊下の床面が滑って危ない場合には床の滑り止めも介護保険で認められています。滑りにくい床材に変更することで、転倒のリスクを減らしていくことも可能です。
また、クッション性の高い床材に変更することも可能です。転倒を100%防ぐことはできないので、転倒してもそのダメージを少なくしていくことも考えましょう。クッションフロアやコルクマットなど、衝撃吸収力の高い床材に変更することもおすすめします。
半面、クッション性を重視すると言っても車いすで移動する際には柔らかすぎると負荷が大きくなり、動かすのに余計に力が必要になります。軽い力でも操作ができるように配慮した床材がいいでしょう。
介護保険対象外の廊下リフォーム
介護保険の対象にはならなくても重要なリフォーム内容があります。3つの保険外リフォーム内容を紹介します。
- 廊下幅の拡張
- 照明を取り付ける
- 壁の補強
廊下幅の拡張
日本の住宅は、廊下の幅が一般的に狭いと言われます。尺貫法に基づいて作られた住宅の場合、廊下の横幅となる柱の芯から芯までの距離は910mmです。ただ、これは柱の中心から柱の中心までの長さですので、これに柱の太さや石膏ボードの厚みなどを考えると、廊下の幅自体はもっと狭くなり、実際の横幅は780mm程度になることが多いです(*2)。
立って歩くことを考えればこの廊下の幅は支障ありませんが、歩行器を使って歩く場合や車いすを自分で漕いで移動する場合に、この横幅は狭いと感じるでしょう。廊下に手すりがついているとさらにその横幅は狭くなり、通行に支障が出る場合もあります。廊下で車いすや歩行器の方向転換するときには、さらに横幅を広く確保する必要があります。
自走式車いすの場合、車いす自体の横幅が630mmとされています。タイヤを両手で操作する横幅も考えると、850mm以上の幅を確保しておくことが推奨されています。廊下幅を確保することで、壁や手すりにぶつかることなく、より安全な移動ができるようになります。
とはいえ、廊下幅を拡張することは大掛かりな工事になりますので、ケアマネジャーさん等の専門職とよく相談して決めましょう。
荷物や家具などが通行幅を狭くしているのであれば、家具の移動・撤去などで通行幅を広くすることができます。力仕事で人手が必要になりますが、自宅でこれからも長く暮らすことを考えたら有効な手段です。
照明を取り付ける
高齢者は夜間にトイレに行くことも多いため、移動経路となる廊下には一定の明るさが必要です。天井面の明かりだけでなく、足元を照らす足元灯を壁面につけることをお勧めします。人感センサー付きの足元灯にすることで、夜間の廊下移動時に明るさを確保することができます。
廊下の明るさの確保は認知症や幻視のある方にとっても、混乱や不安を軽減するのに役立ちます。
壁の補強
車いすで移動する場合、車いすの後輪が壁面と接触することが少なくありません。タイヤによる摩擦で、壁に傷ができたり目立つ汚れがつくことがあります。傷がつきにくいよう、タイヤやフットレストの位置に合わせて保護材を貼って補強することも効果的です。汚れもふき取りやすい材質のものしておくといいでしょう。
これら3つの工事内容は介護保険の対象ではありませんが、廊下の効果的なリフォーム内容として紹介しました。
まとめ
廊下の介護リフォームのポイントについて紹介しました。
廊下は部屋を出て目的の場所にたどり着くための重要な経路となります。トイレに行くにも、浴室に行くにも、外出するにも廊下を経由することが多く、一日に何度も使う移動頻度の高い場所となります。
安全かつ快適に移動できるように介護リフォームの際には廊下を検討することをお勧めします。
介護保険制度の手続きや住宅改修についての全体的な情報はこちらをご参照ください。
参考資料
*1 介護リフォーム本舗 2022年施工箇所別相談件数(独自データ)
この記事を監修したのは
遠藤 哉
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約120,000件を超える。