冬になると、高齢者の転倒事故が急増します。
特に1月は、大腿骨骨折などの重傷事故が多く、寝たきりや要介護状態に直結することも少なくありません。
冬の転倒といえば、積雪や路面凍結による転倒のイメージがあるかもしれませんが、実は転倒事故の多くは、自宅の中で起きています。自宅での転倒は環境を改善することで防止できる可能性もあります。

この記事では、「なぜ冬に転倒が増えるのか?」をわかりやすく解説し、自宅でできる7つの予防対策をご紹介します。
介護リフォームを検討中の方や、転倒を未然に防ぎたいご家族、またケアマネジャー等介護福祉関連の支援者の皆様はぜひ参考にしてください。
高齢者の転倒は冬に多いって本当?統計データで検証
「冬は転倒が増える」とよく言われますが、実際にその傾向はあるのでしょうか?
転倒の件数を季節ごとに調査した明確なデータではないものの、いくつかの公的な統計や調査研究を見てみると、高齢者の転倒や骨折は、実際に“冬に集中する”傾向が明確に確認されています。
救急搬送データでも「冬」が最多
少し古いデータではありますが、2007年の全国37消防本部による救急搬送記録を分析した研究(日本公衆衛生雑誌掲載)では、転倒・転落事故は冬季(12〜2月)に最も多く、全体の約30.6%を占めていました。
- 春:25.5%
- 夏:19.8%
- 秋:24.1%
- 冬:30.6%(最多)
また、月別に見ても11月・12月・1月に件数が集中していることがわかります。以下にそのデータを基にしたグラフを示します。
引用:J-stats「救急搬送記録を用いた転倒・転落状況の調査」
また、同調査でも、転倒の発生場所として最も多いのは圧倒的に「自宅」となっています。冬場の自宅での転倒リスクが高いことがわかります。
これは救急搬送を対象にしたデータでしたが別のデータでも、冬場の転倒骨折のリスクが証明されています。
📊 大腿骨頸部骨折は1月が最も多い ― 厚生労働省 全国骨折調査より
転倒骨折で最もポピュラーなのが大腿骨頸部骨折。大腿骨頸部骨折の統計を見ても季節による偏りが顕著です。
厚生労働科学研究「大腿骨頚部骨折の発生頻度調査(2020年)」において、全国の医療機関から集めたデータでは、1月の骨折件数が最多(3,980件)。
2位は10月(3,926件)、3位は11月(3,876件)、続いて12月(3,736件)と、寒さが本格化する秋〜冬に件数が集中しています。
参照:厚生労働科学研究データベース「大腿骨頚部骨折の発生頻度および受傷状況に関する全国調査」
📊 長崎県の地域データでも「冬に集中」
長崎県内の大腿骨近位部骨折症例をまとめた地域研究(2018年)でも、発症件数が12月に集中し、7月が最も少ないという結果が出ています。
これは高齢者が多い地域の中で、寒暖差が明確なエリアでも同様の傾向があることを裏付けています。
冬に転倒・骨折が増えるのには理由がある
これらの調査結果からわかるように、高齢者の転倒・骨折は、明らかに冬に多く発生することが分かります。
その背景には、冬特有の身体・環境リスクが複雑に重なっています。
次の章では、こうした事故がなぜ起きるのか、身体的な変化(内的要因)と、住環境の危険(外的要因)に分けて詳しく見ていきましょう。
冬には高齢者が転倒しやすくなる?「内的要因」

高齢者が冬に転倒しやすくなる背景には、気温や生活環境だけでなく、身体の内側で起きる変化=内的要因が大きく関係しています。
特に冬場は運動量が減ることや、寒さによる筋力・バランス機能の低下などが重なり、わずかな段差や障害物でも転倒しやすくなるのです。
寒さによる体の動かしにくさ、関節のこわばり
気温が下がると、体は熱を逃がさないようにするために血管を収縮させ、末端(手足)への血流を減らすように働きます。
この結果、筋肉や関節に十分な酸素や栄養が届きにくくなり、柔軟性が低下します。
特に高齢者は、もともと末梢の血流が少なくなりやすいことに加え、筋肉量も減っているため、
冬場はわずかな寒さでも身体の動きが鈍り、転倒のリスクにつながってしまうのです。
運動科学の分野では、「筋肉の温度(筋温)が1℃低下すると、最大筋力はおよそ3〜5%低下する」と言われています。つまり、体温が下がる=筋力の低下につながってしまうのです。寒い時期に転倒が増えるのも当然と言えそうですね。
活動量の低下によるバランス機能の衰え
冬は寒さのため外出機会が減り、自宅でじっとしている時間が長くなりがちです。
特に豪雪地帯に住んでいる方はその傾向が強くなります。
これにより、下肢の筋力・バランス感覚・柔軟性がさらに低下します。
感覚機能の低下と冬の視覚・触覚への影響
高齢者は年齢とともに、視覚や足裏の感覚(深部感覚・触覚)が衰えていきます。
こうした感覚の低下に加えて、冬特有の環境条件が重なることで、転倒のリスクがさらに高まるのです。
暗さによる視覚の負担増
冬は日照時間が短く、夕方以降に自然光が届きにくくなるため、
室内でも「うす暗さ」による視界不良が起こりやすくなります。
特に高齢者は、視覚の順応や奥行き把握が衰えているため、照明環境の変化に弱く、転倒の一因になります。
乾燥と冷えによる足裏感覚の鈍化
冬は空気が乾燥し、足の皮膚が荒れやすくなります。
また、冷えにより末梢の血流が減少し、足裏の感覚が鈍くなりやすいのです。
起立性低血圧やめまいが起きやすい冬の朝
高齢になると、血圧の調整機能が弱まり、起き上がったときや立ち上がったときに血圧が急に下がる「起立性低血圧」が起きやすくなります。
特に冬場は、寝室と廊下・脱衣所などの寒暖差が大きくなることで、血管の収縮が急激に進み、めまいやふらつきによる転倒が多発します。室温が10℃以下の環境で起き上がると、血圧が急上昇または急降下するリスクが高まります。
ヒートショックの前段階として「ふらつき → 転倒」というパターンもよく見られます。
ビタミンD不足と骨折リスクの増加
ビタミンDは、骨の健康や筋肉の働きに不可欠な栄養素ですが、冬は日照時間の減少と運動不足により体内合成が減少します。
高齢者はもともとビタミンDの合成力・吸収力が低下しているため、冬場に不足しやすく、骨が弱くなっているケースが多いのです。ある研究では、ビタミンDの血中濃度が低い高齢者は、転倒・骨折のリスクが約1.5〜2倍に増加するという報告もあります。
転倒しないに越したことはないのですが、転倒が起きたとき、重大な骨折につながるかどうかが重要な分岐点です。骨粗鬆症になりやすい女性の方が転倒・骨折の件数が圧倒的に多く、注意が必要です。
冬の高齢者は「身体が転びやすい状態」に
冬になると、高齢者の身体は以下のような“転びやすい条件”を複数抱えていることがわかります。
- 筋力・柔軟性の低下
- バランス感覚の衰え
- 視覚・感覚の鈍化
- 運動不足による体力低下
こうした“内的リスク”が積み重なることで、冬のちょっとした段差や動作の変化が、大きな転倒事故につながるのです。
冬になると住環境のリスクが増大する?「外的要因」

高齢者が冬に転倒しやすくなる背景には、身体的な変化だけでなく、住環境にひそむ外的なリスクも大きく関係しています。
寒さ対策のための器具や服装、そして断熱不足による室温差など、“冬特有の生活条件”が事故を引き起こす要因となっているのです。
以下では、特に注意すべき6つの外的リスクについて詳しく見ていきます。
厚着・靴下・室内履きで歩行が不安定に
寒さ対策としてコートや重ね着をしていると、身体の可動域が制限され、足が上がりにくくなります。
また、厚手の靴下で足裏の感覚が鈍ったり、乾燥でスリッパが脱げやすかったりといったことが、つまずきの原因になります。
ホットカーペット・カーペット・コードの転倒リスク
冬は暖房器具や電気製品の使用が増え、床にホットカーペット・電源コード・延長タップなどが集中しやすくなります。
これらは高齢者の足が引っかかる原因になりやすく、実際に「ホットカーペットの端でつまずいた」「コードに足を取られた」という事故も多数報告されています。
断熱不足によるヒートショック
浴室や脱衣所・トイレなどの断熱が不十分だと、居室との温度差が10℃以上になることもあり、
ヒートショックによる血圧変動やふらつきから転倒につながるケースが少なくありません。特に入浴場面でのヒートショックには注意が必要です。
わずかな段差や敷居が“つまずき”のきっかけに
高齢になると、わずかな段差でも足が引っかかりやすくなります。
冬は筋肉のこわばりで足がしっかり上がらないため、いつもだったら何気なく越えている敷居や畳の縁などでもつまずく危険性が高まります。
照明不足・夜間の視界悪化
冬は日が落ちるのが早く、16時台には屋内も薄暗くなることがあります。
高齢者は暗い場所での視力が衰えているため、足元の段差や障害物に気づきにくくなるのです。
路面の凍結・屋外スロープの滑り
もちろん、転倒は屋内だけでなく、屋外でもリスクがあります。
冬は降雪や朝晩の冷え込みにより、玄関先・階段・屋外スロープが凍結しやすくなります。
特に日陰や北向きの場所は氷が残りやすく、滑って転倒→骨折につながる事故が多数報告されています。
冬の住環境には、季節特有の危険ポイントがいくつも潜んでいます。
高齢者にとっては、「家の中」こそ最も注意が必要な場所。
早めの対策と住環境の見直しが、転倒事故の予防=命を守る行動につながります。
冬場の見直しポイントを次の章で解説します。
冬の転倒を防ぐ!介護リフォームでできる7つの対策

高齢者にとって冬は「家の中がもっとも危険な季節」になることがあります。
寒さで身体が動きにくくなり、筋力も低下しやすく、そこに段差・滑り・暗さといった住まいのリスクが重なるからです。
そこで、ここでは介護リフォームで実現できる「転倒を防ぐ7つの具体策」をご紹介します。
① 段差がある場所には手すりを
高齢者にとって、数センチの段差でも「つまづき」や「バランス崩れ」の原因になります。
特に冬は、筋肉のこわばりや厚着による可動域の低下で、足がしっかり上がらず、つまずきやすくなります。
そんなときに「つかまれる手すり」があることで、
手すりの設置は「介護保険の住宅改修制度」が利用可能です。
要介護認定を受けている方であれば、最大20万円までの改修費用が支給される制度があります。
② 脱衣所や浴室のヒートショック対策
暖かい部屋から、寒い脱衣所・浴室へ移動すると、血圧が急激に変化し、ふらつき・転倒の引き金になります。いわゆる「ヒートショック」で、冬に起こる転倒事故の隠れた原因です。
寒い脱衣所では、足元が冷えて筋肉も硬直しやすく、動きが鈍くなるため、風呂場での転倒が起こりやすくなります。そのため、次のような対策がヒートショック予防に効果的です。
冬場のヒートショック対策には「暖房+断熱リフォーム」のセットがもっとも効果的です。
③ 照明を明るく、夜間の足元灯を設置
高齢者は、暗がりでの視覚が弱く、段差や障害物が「見えていない」ことが多くあります。
16時以降は家の中がすでに“暗い空間”になっていることもあるため、暗さ対策が必要です。
また、明るい空間は不安感を軽減させる効果や、認知症の方にとっても視認性が高くなり有効です。
④ カーペット類は固定 or 撤去+コード整理
冬になるとホットカーペットや暖房器具のコード類が増え、足元に“つまずく要素”が多くなります。
高齢者の足の運びは小さく、足裏の感覚も鈍くなっているため、わずかな段差やコードでも転倒につながる可能性があります。
歩く場所に危険はないか、一度見直しをしてみるのもいいでしょう。
⑤ 路面凍結の安全対策
冬場の屋外では、玄関やスロープ、階段などが凍結して滑りやすくなります。
特に朝晩の時間帯や日陰は、目に見えない薄い氷で転倒しやすい状況が多くなります。
外まわりのリフォームは、転倒予防だけでなく「外出機会を増やすきっかけ」にも。特に寒冷地・雪の多い地域の方は早めに対策しておくことをお勧めします。
心理的な安心感があることで、閉じこもりを防ぎ、冬の運動不足予防にもつながります。
⑥ 服装の動きやすさや、靴下の厚みにも注意
冬の防寒対策として重ね着や厚手の靴下を使うことで、かえって動きにくさや足裏感覚の鈍さを引き起こし、転倒のリスクを高めてしまいます。
服装や履物を変えるだけでも、「足が上がる」「よろけない」「しっかり踏み出せる」という体感的な違いが生まれます。特に靴下は、厚手になると床を足の指でしっかりつかむという力を生み出しにくく、転倒のリスクが高まります。
冬の転倒予防の第一歩は、“転びにくい服装”からです。
⑦ 運動と外出で筋力と柔軟性を維持
寒さで外に出たくなくなる冬は、どうしても運動量が減ります。
これが知らないうちに足腰の筋力・バランス機能を衰えさせ、転倒しやすい体を作ってしまうのです。
日中の安全な時間に出かけられるよう、玄関や屋外の安全対策とセットで行うことが効果的です。
外出できる環境を整え、外出機会を維持することを心がけましょう。
まとめ

「高齢者の冬の転倒」についてまとめました。
実際、高齢者の転倒事故は冬に集中する傾向があり、また、その多くは自宅で起きています。転倒のリスクを軽減するためには、まず住環境の工夫が必要です。
冬になって急に心配になった、といって手すりをつける・段差解消する、といっても、市区町村への申請をして許可が出るまで一カ月以上の時間がかかります。介護保険の認定を受けていない方はそれよりももっと時間がかかります。そうこうしていると冬が終わってしまう、なんてこともあります。
なので、転倒が心配な方は、早めにケアマネジャーや地域包括支援センターに相談しておきましょう。
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