この記事を監修したのは
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
遠藤 哉
ご高齢の夫婦で暮らしている世帯も多くいらっしゃいます。年齢を重ねると、夫婦それぞれ、住まいに不自由な状況が生まれます。夫婦で住宅改修・介護リフォームが必要な場合について相談をいただくことも多いです。
私は腰が痛くて、妻は膝が悪い。ずっとこの家で暮らしてきたが、段差が多く、お互い家の中で移動するのもおっくうになってきた。先日、妻が玄関上がりかまちの段差を降りるときに転んで尻もちをついた。ここで暮らしていくのは危ないなと、二人で施設に入ることも含めて考えた。でも、できるだけこの家で暮らしたいという気持ちは妻も変わらないので、娘とも相談して、「それなら、リフォームをしたらどうか?」と言われた。リフォームのことは考えていなかったが、介護保険も使えるということがわかり、前向きに検討している。
でも、家の中は段差だらけだし、玄関の外にも階段があって手すりをつけたい。保険が使えるのは20万円分だと聞いたが、そのくらいはかかってしまうんじゃないだろうか。夫婦二人で住宅改修する場合は、二人分の介護保険が使えるのか知りたい。
腰に痛みのある相談者様と、膝に痛みがあって玄関で転倒した奥様。住宅改修をする場合、介護保険は二人分使えるのか、という相談です。
株式会社ユニバーサルスペースの代表取締役、介護リフォーム本舗として100店舗を超える店舗のフランチャイズの代表をされる遠藤哉社長に伺いました。
介護保険の住宅改修は「ひとり」20万円分という限度額が設定されています。世帯単位・家屋単位の限度額ではないので、それぞれに必要な介護リフォームができます。詳しく解説します。
夫婦で住宅改修をする場合
ご夫婦で住宅改修を一緒に行うこともあります。近年、老々介護やダブルケアと言われるように、夫婦ともに介護認定を受けて自宅で生活をするケースも少なくありません。お互いに介護が必要な状況でありながらも、できない部分を補い合って生活している世帯はたくさんあります。
お二人それぞれが要介護認定もしくは要支援認定を受けているのであればお二人とも介護保険の住宅改修の対象となります。当然、夫婦だからといって同じ病気になるわけでもないし、同じ不自由さを感じているわけでもないし、同じようにリスクがあるとは限りません。それぞれに困っている場所は違います。
たとえば、夫婦でもこのように意見が食い違うことがあります。
(右利き)
右手を使って階段を下りたい!
(左利き)
左手を使って階段を下りたいから、下りの時に左手側に手すりが欲しい!
車いすで移動
部屋の出入り口はスロープにしてほしい!
手すりはいらないから廊下の幅は広い方がいい。
(歩いて移動)
斜面でバランスを崩しやすいから段差があってもいいから手すりをつけてほしい。
手すりで廊下の幅が狭くなっても構わない。
10人いれば10人とも住宅改修の内容が異なるように、夫婦であってもそれぞれ住宅改修で改善すべき内容が異なります。夫婦だけではなく、親子で介護が必要な状態であったり、家族以外でも同居されているパターンもたくさんあります。
同居されている方がどちらも要介護・要支援状態で、それぞれの希望を追求していけば相反する場合もあります。なので、それぞれの状態を加味して適切なリフォームを検討することが必要です。
対象者が複数いる場合の介護リフォームのポイントを紹介します。
対象者が複数いる場合のリフォームのポイント
まずはそれぞれの課題を確認する
同居家族と言えども基本は同じで、どんな動作をするときに困っているのか、どんな動作にリスクがあるのかを確認することが大事です。同じ家で暮らしていても、人が違えば、生活パターンも違い、困っている部分や困難な動作は異なります。
まずはそれぞれの希望や課題をしっかり聞き取り確認しましょう。どちらか一方だけの話を聞くのではなく、両方の声に耳を傾けることが重要です。
住宅改修によって双方にデメリットがないかの確認を
先にお伝えしたように、どちらかにとっての解決策となる住宅改修が、別の方にとってのバリアーとなってしまう場合もあります。疾患や生活スタイルの違いもあるため、住宅改修によってどのような生活になるかを双方の視点でシミュレーションすることが必要です。
- 廊下に手すりを取り付けたら廊下が狭くなって車いすが通りにくくなった
- 車いすで動きやすいようにフローリングにしたら、歩くのには床が滑って転びそう
このような事態を避けなければいけません。
どちらにとっても安全なリフォームの折衷案・解決案があるはずです。介護リフォームの経験の多い事業者であれば、提案できる内容も多いのでお勧めです。
項目を明確に分ける
工事項目ごとに、どちらの保険を使うのか、明確に分ける必要があります。
[玄関と廊下の手すりはご主人の分] [トイレの手すりと勝手口の踏台取付は奥様の分]
どちらが主に使っているスペースかも考えましょう。ご主人しか使わない書斎の住宅改修を、奥様の保険を使って行うというのは不自然な話です。どちらか使っている人が特定されるスペースであればその方の保険を使います。
それぞれの障害や状態も考慮しましょう。脳梗塞の影響で右片麻痺になったご主人と、認知症の奥様。外階段の両側に手すりをつけるのであれば、手すりを掴める手が限られるご主人としては上りと下り両方に手すりがあると助かります。このような理由から、ご主人側の保険で階段手すりを設置するのは根拠も明確で理にかなっています。
40万円分の工事、ではなく、あくまで20万円+20万円の住宅改修工事であることを念頭にしましょう。
20万円の限度額を使い切ってしまった場合ですが、介護度が3段階上昇することで限度額リセットされる「3段階リセット」もあります。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
負担割合の違いにも注意
夫婦で負担割合が違う場合もありますので注意しましょう。ご主人は3割(2割)負担、奥様は1割負担、というように負担割合が異なる場合があります。介護保険の負担割合は世帯単位ではなく、個人の所得をもとに算定されています。
たとえば、ご主人と奥様で困っている部分が共通している場合、先に1割負担の奥様の分を使う、というのもいいでしょう。費用負担が1割と3割では大きく異なります。奥様の分だけでは対応できない場合にご主人の分を使う、という方法が最も経済的な解決策です。
どちらの介護保険を先に使う?という状況になったときに悩まないよう、頭の片隅に置いておきましょう。
手すりの高さをどうする?
複数の方が共通して使う場所だった場合、手すりの高さはどちらに合わせて設定するか。例えば、夫婦で暮らしていて、ご主人は背が高く、奥様は背が低い、という場合、どちらの高さに合わせて手すりを取り付けるべきか、という問題があります。
※身長だけが手すりの高さの基準になるわけではありません。手すりの高さについて詳細な説明はまた別記事で紹介します。
「ご主人に合った高さと、奥様にあった高さ、そのちょうど中間の高さにしよう」とか、
「高い方に合わせて決めよう」など、いろいろ方法はあります。
ただ、手すりひとつでその生活の質は大きく異なりますので、それぞれの動作を見て、どちらのリスクが大きいか、どちらの方が使いやすいか、よく検討した上で使用場所に応じて適切な高さを設定することをお勧めします。
手すりの選び方はこちらの記事をご参照ください。
以上、複数の方が住宅改修を必要としている場合の住宅改修ポイントを紹介しました。
複雑な事例もまずは相談から
このように様々な要素がある場合、一般の工務店やハウスメーカーではノウハウや経験がないため、最善のプランニングをすることは困難です。介護リフォーム・住宅改修の経験豊富な事業者に相談することが必要です。
また、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員、理学療法士や作業療法士といった専門職による助言も大きなヒントになります。解決したい問題の優先順位を定め、専門家に相談することをお勧めします。
この記事を監修したのは
遠藤 哉
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約120,000件を超える。
遠藤社長
ご夫婦ともに不自由を感じながらの生活、お困りのことかと思います。介護保険での住宅改修が認められるのは世帯を対象にするわけではなく、個人単位になるので、住宅改修に関してもご夫婦それぞれに20万円分の枠があります。つまり、夫婦で合計すると40万円分の枠を使うことができます。もちろん、それぞれにお困りの内容は違うと思いますので、ご夫婦それぞれの状況に合わせて、住宅改修の提案をさせていただいています。