この記事を監修したのは
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
遠藤 哉
いざ家族に介護が必要となったとき、介護がしやすいように自宅のリフォームを検討する方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし専門家の意見なしでは、どうしていいか分からず困ってしまうかもしれません。そこで頼りになるのが、介護保険制度の「住宅改修」です。
今回は、介護保険の住宅改修について徹底解説するとともに、上手な業者の選び方についてもご紹介します。
★こんな人に読んでほしい!
- 住宅改修・介護リフォームで何ができるかわからない方
- 退院後の自宅での生活が不安な方やそのご家族
- 足腰が弱くなり自宅での生活に不安がある方やそのご家族
★この記事で解説していること
- 介護リフォームは動作の自立を促すことで転倒を予防し、介護者の負担軽減にもつながる
- 介護保険の住宅改修を利用すると、最大で18万円が支給される
- 介護リフォームは、状態が変わったときや退院したときに実施するとよい
- 介護保険の住宅改修でできる工事は6種類。ほかに市町村独自の補助金もある
- 介護保険の住宅改修は申請に関するトラブルや悪徳業者に注意
- 介護リフォーム事業所は、信頼性や実績を元に相見積もりを取って選定する
- 福祉用具のレンタルや購入、躓きそうなものを片付けるなどの工夫でも転倒・転落防止が可能
1. 介護リフォームの必要性
1-1. 転倒するリスクが最も高い場所は「自宅」である
加齢とともに足腰が弱ると、転倒リスクが高まります。下肢の筋力低下だけでなく、加齢に伴いバランス能力、瞬発力、持久力、柔軟性が衰え、とっさの対応能力も徐々に衰えてしまいます。総合的な身体機能の衰えによって転びやすくなってしまいます。また、従来の日本家屋は段差が多い作りになっていることも転倒リスクを高める原因になっています。
消費者庁が2018年に公表した調査*1によると、年齢が上がるにつれて転倒・転落による死亡者数が増すという結果が明らかになっています。特に75歳以上になると、急激に死亡者数が増えているのが分かります。
高齢者の「不慮の事故」による人口10万人当たりの死亡者数(単位:人)*1
10万人当たりの死亡者数 | 2007年 | 2016年 | ||
参考 | 55~59歳 | 3.3 | 2.6 | |
60~64歳 | 4.8 | 3.6 | ||
高齢者 | 前期 | 65~69歳 | 6.3 | 4.5 |
70~74歳 | 9.7 | 6.6 | ||
後期 | 75~79歳 | 15.9 | 12.9 | |
80~84歳 | 26.7 | 25.1 | ||
85~89歳 | 51.2 | 50.9 | ||
90歳~ | 111.8 | 123.3 |
また、高齢者における救急搬送の原因をみると、転倒や転落によるものが全体の80.8%と割合として圧倒的に多くなっています。救急搬送された人のうち中等症以上となってその後の在宅生活に影響を及ぼしている割合は、40.1%にものぼっています。
事故種別ごとの高齢者の救急搬送者数(単位:人)*1
転倒・転落 | ものが詰まる等 | ぶつかる | おぼれる | 切る・刺さる | はさむ・はさまれる | かまれる・指される | やけど | その他・不明 | 総計 | |
救急搬送者数 | 58,351 | 1,703 | 1,337 | 535 | 533 | 323 | 254 | 211 | 8,951 | 72,198 |
中等症以上の割合 | 40.1% | 52.3% | 20.0% | 99.3% | 16.4% | 33.7% | 9.4% | 32.2% | 57.0% | 43.3% |
さらに、転倒や転落によって救急搬送された人のうち「自宅(住居等居住場所)」で転倒した人の割合は、57.7%と最も高い数値になっています。一見転倒の危険が高そうなイメージがある屋外や外出先ではなく自宅の割合が1位だったということは、自宅での転倒リスクが非常に高いということを示しています。
転倒・転落は、高齢者の要介護状態を増悪させる危険性が極めて高い事故です。最悪の場合、命の危機にも直結するリスクをはらんでいます。その一方で、高齢者は普段外出する機会も限られているため、1日の大半を転倒・転落リスクが最も高い自宅で過ごすことになります。つまり介護予防や介護度の悪化防止のためには、いかに自宅での転倒や転落を防ぐかが大きなカギを握っているのです。
1-2. 転倒を防ぐ環境整備のためには、介護リフォームを活用することが大切
自宅での転倒・転落事故を防ぐために活用したいのが、介護リフォーム制度です。自宅での転倒は居室や階段などの段差があるところで多く発生しています。転びやすい場所に重点を絞ってリフォームをすれば、大幅に転倒リスクを下げることが期待できます。
消費者庁のデータ*1によると、自宅の中でも特に転倒する危険性が高い場所は「居室」であることが分かります。次に多いのが「階段」で、以降は「廊下」「玄関」と続いています。
消費者庁の別のデータ*2によれば自宅内では次のような事故が起きているとされています。
リビング・寝室
- こたつの電源ケーブルにつまずく
- 部屋と廊下の段差(敷居)につまずく
- 布団やカーペットなどにつまずく
- ベッドから転落する
階段・廊下・玄関
- 階段を踏み外す
- 暗闇で足元が見えずに転倒する
- 履いていたスリッパが滑って転倒する
- 玄関で靴の脱ぎ履きをしているときに転倒する
こういった事故は、たとえばつまずきそうな段差を解消する、段差があるところには手すりを付けてつかまるようにすれば予防できる可能性があります。転倒する確率が高い場所を中心にリフォームすれば、高齢者の事故のリスクを減らすことが可能になります。
1-3. 介護リフォームは介護者の負担軽減にもつながる
介護リフォームの効果は、要介護者本人の転倒を予防するだけではありません。介護する側の家族も普段のお世話が楽になるので、負担を軽減することにつながります。
たとえば、今まで「廊下を歩くときに転ぶ心配があるから、必ず付き添わなきゃいけない」という状況の場合は廊下の壁に沿って手すりを取り付けることで課題が解決する場合があります。歩くときにつかまるものがあるため歩行の安定性が上がるのは勿論ですが、「転ぶ心配がなくなったから付き添う必要がなくなる」ため、介護者の負担も軽減することが可能になるのです。要介護者本人も今まで付き添ってもらっていた負い目から解放され、自力で移動することができる自信がつくことから、精神的な自立を促すことにもつながります。
このように、介護リフォームがもたらす効果は事故防止だけではありません。介護者の負担軽減や要介護者本人の生活の質を向上させることにもつながります。積極的に活用し、Win-Winの生活環境を作っていきましょう。
2. 介護リフォームの補助金
2-1. 介護保険の住宅改修とは?支給額は最大18万円支給
「住宅改修*3」とは、介護保険サービスのひとつで、介護のために必要な所定の工事を行った場合に、実際にかかった費用の一部を助成してくれる制度です。「介護リフォーム」は、介護を行うための生活環境を整える幅広い工事を指しますが、「住宅改修」の内容はあくまで介護保険法で定められた工事に限定されているという違いがあります。
介護保険の住宅改修の対象となるのは最大で20万円で、要介護者の自己負担割合(1~3割)を除いた金額が助成金として支給される仕組みです。例えば自己負担1割の方が10万円の工事を行った場合、はじめに10万円を業者に支払った後に手続きをすると後日9万円が返金されます*3。自己負担割合は毎年8月に要介護者の前年度の所得によって更新されますので、事前に確認が必要です*4。
(計算例1) 工事にかかった費用の総額:10万円、自己負担割合が1割(給付率90%)の場合 10万円×90%=9万円(介護保険による助成額) 10万円-9万円=1万円(自己負担額) |
ほかの介護保険サービスは要介護度に応じて利用できる限度額や1回あたりの単価・利用できるサービスの内容が変わります。しかし住宅改修は要支援1〜要介護5の全ての認定の人が利用できる一方で、利用上限額は全ての介護度で同じ20万円であるという点も特徴です。*3
なお、住宅改修による工事は最大20万円分までが対象になるので、20万円を超えた分の費用は全額自己負担となります。
(計算例2) 工事にかかった費用の総額:30万円、自己負担割合が1割(給付率90%)の場合 20万円×90%=18万円(介護保険による助成の最大額) 30万円-18万円=12万円(自己負担額) |
ただし1回目の工事費用が20万円を超えなければ、上限に達するまで複数回に分けて利用することが可能です。
(計算例③) 2回の工事総額:35万円、自己負担割合が1割(給付率90%)の場合 工事1回目費用額: 5万円5万円×90%=4万5,000円(介護保険による助成額) 5万円-4万5,000円=5,000円(1回目の工事の自己負担額) 工事2回目費用額: 30万円20万円(利用上限額)-5万円(1回目の工事で利用した額)=15万円(残りの助成枠) 15万×90%=13万5,000円(工事2回目の介護保険による助成額) 30万円-13万5,000円=16万5,000円円(2回目の工事の自己負担額) |
このように、介護保険制度を活用すると最大で18万円まで介護リフォームの助成が受けられます。利用上限額の20万円に達するまでは何度でも利用できます。利用歴は住民票がある自治体の介護保険担当課で管理されており、利用枠を使い切った時点で自動的に全額自己負担となるので覚えておきましょう。
2-2. 住宅改修の支給条件
住宅改修費の支給を受けるための条件は、以下の4つ全ての条件を満たす必要があります。
ここで注意が必要なのは、1と3です。たとえば自宅で独り暮らしをしていた方に介護が必要となったため、長男夫婦の家で同居することになった場合は、住宅改修を行いたい家屋と要介護者の住民票上の住所が異なります。この場合には実施できません。
また、住宅改修は施工前に改修計画を市区町村の介護保険担当窓口に提出し、許可を得る必要があります。改修計画を提出せずに住宅改修を行った場合は介護保険対象とならないため、注意しましょう。なお、入院中の要介護者が自宅へ退院するための準備として住宅改修を実施し、予定通り退院して在宅復帰した場合は、例外的に施工後の申請が認められています。
どちらの場合でも、住宅改修の申請には指定の様式や住宅改修を行う目的を説明する理由書が必要となります。申請方法も複雑なので、住宅改修を希望する場合は、まず地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに相談することをおすすめします。
2-3. 住宅改修は原則1人20万円まで。ただし再度利用できる条件が3つある
住宅改修は、ひとりあたりの上限額が20万円までと定められています。利用額が20万円を超えた場合は、再び助成を受けることはできません。しかし、実は一定の条件を満たした場合は再び住宅改修を利用できるようになります。
その条件とは、以下の3つです。
1つ目については要介護者である方の妻など、ほかの同居人が要支援1以上の認定を受けた場合、その同居人の枠で住宅改修が実施できます。住宅改修の上限額は1人につき20万円なので、同居人で要支援1以上の認定を受けている人がいれば、住宅改修ができるのです。ただし、住宅改修助成金は当該被保険者自身の介助のために使用されなければなりません。本人以外のために住宅改修を行うことは認められてはいません。
2つ目は、何らかの事情により、もともと住んでいた家からほかの居所へ転居して住所変更手続きをした場合です。転居をした場合は今まで利用した上限枠の20万がリセットされ、転居後の住宅で再び住宅改修を利用できます。ただし、元の家で暮らしていたときに上限額まで利用していなかったとしても残額は加算されません。
3つ目は、要介護度が認定更新手続きや区分変更(要介護度の見直しを請求する手続き)によって、住宅改修を利用した時点から3段階以上悪化した場合に上限額がリセットされます。この場合は、同じ家に住んでいても再び20万円まで利用できます。
ただし、下の表の通り、要支援2と要介護1は同じ段階としてカウントされますので勘違いしないようにしましょう。
介護度の段階 | 要介護度 |
第6段階 | 要介護5 |
第5段階 | 要介護4 |
第4段階 | 要介護3 |
第3段階 | 要介護2 |
第2段階 | 要支援2 または 要介護1 |
第1段階 | 要支援1 |
2-4. 住宅改修申請の流れ
住宅改修申請の流れは、以下の通りです。
なお、利用者が業者に支払う工事費については、いったん全額を支払ったのちに助成金が振り込まれる「償還払い」という方法が一般的です。
ただし、市区町村によっては利用者の一時的な負担を抑えるために自己負担割合に応じた1~3割相当額のみを施工業者に払い、残りの助成金を市区町村が直接施工業者に支払う「受領委任払い」という方法に対応している自治体もあります。
支払い方法をどうするかによっても住宅改修の申請書類が変わってくるので、不安なことがある場合は遠慮なく担当のケアマネジャーに相談しましょう。
2-5. 市区町村によって介護保険外の助成金がある
介護保険による住宅改修は上限が20万円でしたが、自治体によっては介護保険制度以外の独自の介護リフォーム補助事業を行っていることもあります。介護保険の上限額よりも高い助成金を受け取れる場合もあるので、ぜひ有効に活用しましょう。
市区町村独自の助成金について、一例をご紹介します。
市区町村及び制度名 | 対象者 | 助成の概要 |
千葉県浦安市住宅改修費用の助成*5 | 40歳以上ですべての要介護(要支援)認定者 | 介護保険制度における受託改修の内容に準じ、自己負担割合に応じて住宅改修費用を上限30万円助成する。 |
東京都足立区高齢者住宅改修給付*6 | 65歳以上で要介護認定が非該当の者介護保険の住宅改修を実施したが、更に改修が必要な者 | 予防給付介護保険制度に準ずる住宅改修(上限20万円)設備改修またぎやすい浴槽への交換(上限20万円)和式から洋式への便器交換(上限10万6,000円)車椅子に乗ったまま使用可能な流しや洗面台への交換(15万6,000円) |
兵庫県 人生いきいき住宅助成事業*7 | 要介護または要支援認定受けている者がいる世帯身障手帳、療育手帳の交付を受けたものがいる世帯 等※収入によって制度の対象外になる場合あり | 身体状態に応じたバリアフリー工事もしくは増改築を行う場合に費用を助成する。(住宅改造型)工事費用の1/3・上限100万円/世帯※介護保険法の住宅改修上限枠20万円を含む (増改築型)工事費用の1/3・上限150万円/世帯 |
市区町村独自の補助金は条件もまちまちで、介護保険との併用が認められていなかったり、独自の基準があったりします。しかし利用上限枠が介護保険より高く設定されている場合が多いので、非常に魅力的な行政サービスになっています。詳しくはお住いの市町村へ問い合わせてみましょう。
3. 介護リフォームは退院時や状態が変わったときに行う
介護リフォームは、退院するタイミングや心身状態が変わって新たに介護ケアや対応が必要になったときに行いましょう。元気なうちからリフォームを行うと実際に使わずに終わってしまう可能性があるだけでなく、将来予想外の変化に対応できなくなる可能性があるからです。
たとえば、「要支援1の認定を受けたから、今後は手すりが必要になるだろう」と現時点では不要な手すりを廊下に設置したとします。仮にその後、病気によって歩けなくなってしまったとしたら、せっかく取り付けた手すりを使うことができません。それだけでなく、使わない手すりの設置に住宅改修の利用枠を使ってしまっているので、病気をしたあとそのときの症状に必要となる住宅改修で助成を受けられなくなってしまいます。
歩行状態に支障がないときはとくに工事は行う必要がありません。歩けなくなったタイミングで自宅内を車椅子で移動することを考慮して改修をしてみるとよいでしょう。介護リフォームは、実際に何らかの手立てが必要になったときに専門家と相談し、適切な工事を行うことが最も効果的であるといえるです。
4. 介護リフォームの種類と費用
4-1. 介護保険でできる住宅改修の種類と費用
介護保険制度で認められている住宅改修の内容は、以下の通りです。
- 手すりの取付け
例:廊下や階段に、転倒防止を目的として設置する。
立ち上がりや立った姿勢を維持することを目的に、玄関や浴室に設置する。
- 段差の解消
例:玄関ポーチの階段にスロープを作り、車椅子のまま出入りできるようにする。
床をかさ上げし、つまずきを予防する。
- 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床または通路面の材料の変更
例:車椅子での移動を楽にするため、畳からフローリングに変更する。
車までの動線上にある砂利道を舗装し、車椅子でも移動できるようにする。
- 引き戸などへの扉の取替え
例:手指の動きが不自由な方でもドアの開閉ができるよう、ドアノブを変更する。
力がなくても戸の開閉が楽になるよう、戸車やレールを交換する。
- 洋式便器などへの便器の取替え
例:下肢筋力の低下で和式便器が使用できなくなったため、洋式便器へ変更する。
立ち上がりや歩行が困難となり這って移動する生活になったため、洋式便器から和式便器に変更する。
- その他上記5種類の住宅改修を実施するに当たって必要になる改修
例:手すりを壁に取付ける際の補強工事、セメントでスロープを作る際の整地、便器の交換に伴って生じる配管工事 など
基本的なルールは全国的に同じですが、工事内容によっては市町村の判断で認められないケースがあります。住宅改修の申請を行う前に、具体的な構想をケアマネジャーと相談して確認しておくと安心です。
なお、住宅改修の工事にかかる費用は施工業者が独自に定めることが認められているため、料金は業者ごとに大きく異なります。もし、金額面で納得できないようであれば、複数の業者に見積もりを取ったうえで比較検討することをおすすめします。
4-2. 介護保険の対象外になる住宅改修の例*8
介護保険における住宅改修には細かなルールがあり、介護保険の対象になる工事とならない工事が厳格に定められています。単に壁紙を変えるなど介護に関係ない工事や同居家族が使用するために行う工事は対象になりません。また、上記でご紹介した「手すりの取付け」や「段差の解消」に該当する工事だとしても、すべてが対象にならない場合もあります。
「対象外」の工事には、たとえば以下のようなものがあります。
「手すりの取付け」に関する対象外の工事例
- 床や壁にビスなどを用いて固定しない、福祉用具貸与に該当する手すりの設置
- 装飾や付属品のついた手すりの取付け
- スライドバー付シャワーフックの取付け
- 紙巻器(ペーパーホルダー)と手すり・棚が一体化になったものの取付け
- 既存の手すりが老朽化した場合の交換
「段差の解消」に関する対象外の工事例
- 昇降機・リフト・段差解消機などの動力で床段差を解消する機器の設置工事
- 福祉用具貸与該当するスロープや踏み台の設置
- 特定福祉用具販売に該当する「浴室用すのこ」や「浴槽用すのこ」の設置
「滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更」に関する対象外の工事例
- 単にベッドを置くために畳からフローリングなどへ変更する工事
- 畳・根太・床板などの老朽化や破損によるフローリングなどへの変更や張替の工事
「引き戸などへの扉の取替え」に関する対象外の工事例
- 扉を自動ドアに変更した場合の、自動ドア動力部分の設置工事
- 扉の老朽化を理由とした取替工事
- 扉の付属品や装飾部品に関する工事
「洋式便器等への便器の取替え」に関する対象外の工事例
- 洋式便器から別の洋式便器に取り替える工事
- 非水洗の場合に水洗化するための工事
- 特定福祉用具販売に該当する「腰掛便座」の設置
- 暖房便座や洗浄機能が付いた便器への交換もしくは機能付加に関する工事
基本的に介護保険制度の対象になるのは「住宅の構造」に関する部分であり、「浴槽本体、給湯設備、流し・洗面台の取替え」など、いわゆる設備に関する工事は対象外になります。また、市区町村ごとの判断で対象となる工事内容が異なる場合もあります。詳細は必ずケアマネジャーや施工業者と相談し、申請ミスがないように注意しましょう。
5. 介護リフォームを行うときに注意すべき3つのポイント
介護リフォームを介護保険制度で行う場合は、申請の際にトラブルにならないよう注意が必要です。とくに次の3つの点に注意しましょう。
住宅改修は基本的に工事前に申請して市区町村から許可を得る必要があります。しかし入院中に退院に合わせた環境調整を行う必要がある場合に限り、許可を得る前に工事をしても介護保険の給付対象となります。ただし、本人が予定通り退院できなかった場合は無効になるので、リスクを把握したうえで工事を実施する必要があります。
また、住宅改修はほかの介護保険サービスと異なり、施工業者に制限はありません。そのため、たとえば利用者の知人を介した一般業者への依頼も可能です。しかし、制度の内容や住宅改修の意義および目的を理解していない業者に一任してしまうと思わぬトラブルの原因になります。制度を理解しないまま事前申請が通る前に工事したことで給付対象外となってしまったり、本人の状況を把握しないまま素人判断で工事した結果、使えなかったりといったことが実際に起きています。
さらには、近年住宅改修の制度を悪用して不正に利益を得ようとする悪徳業者が増えている点にも注意が必要です。各自治体でも注意喚起をしているため*10、業者を選定する際は次にご紹介するおすすめの選び方を参考にしていただき、十分にご注意ください。
6. 介護リフォームの事業所のおすすめの選び方
介護リフォームを行うための事業所を選ぶときは、次の6つの視点で選択するようにしましょう。
- 本人の状態に合わせた施工ができるか
- 介護保険の住宅改修制度を利用した施工実績があるか
- 納期が早いか
- 一社の見積もりで納得がいかない場合は、合い見積もりを取る
- 一旦全額を支払う償還払いが難しい場合は、受領委任払いに対応した事業所を選ぶ
- どこに頼んだらいいかわからない場合は、ケアマネジャーから複数の事業所を紹介してもらう
まず介護リフォームをするうえで最も重要なのは、本人の状態に合わせた改修内容の提案や施工ができるか、という点です。手すり1本にしても棒の太さによって握りやすさが変わりますし、実際に使用する人の体格や状態に合わせた高さに設置しないと効果が発揮できないという問題もあります。そのため、「福祉用具専門相談員」「福祉住環境コーディネーター」「介護福祉士」「理学療法士」「作業療法士」などの専門的な資格保有者がいる事業所にお願いすると安心です。
また、自治体によって異なるものの、申請してから工事が完了するまでは2~3週間程度かかる場合もあります。少しでも困っている状況が早く解決するように、相談や施工対応を速やかに行ってくれる事業所に依頼しましょう。平成30年7月13日からは、住宅改修申請の際に複数の事業所に見積もりを取ることが推奨されるようになりました*11。もし見積もりに不満があるときは遠慮なく相見積もりをとって比較しましょう。
7. 住宅改修せずに自宅環境で工夫する方法
自宅での介護環境を整えるための方法は、住宅改修だけではありません。介護保険制度では「福祉用具貸与」「特定福祉用具販売」*12というサービスがあり、要支援1から利用できます(一部例外あり)。また、介護保険制度に頼らずとも自宅内で転倒・転落する危険性があるものを取り除けば、リスクを減らすことが可能です。
「福祉用具貸与」では、要介護度に応じて次の用具を保険適用でレンタルできます。
注1:車椅子及び付属品、特殊寝台及び付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、移動用リフト、認知症老人徘徊感知器は原則要介護2から利用可能。
注2:自動排泄処理装置(排便機能を有するもの)は原則要介護4から利用可能。
また、特定福祉用具販売*13では、レンタルになじまない以下の福祉用具について年間10万円まで購入費用が自己負担割合に応じて助成されます。
福祉用具に関しての詳細はこちらの記事をご参照ください。
介護保険制度に頼らない環境整備では、以下のようなものがあります。
これらはあくまで一例です。介護保険のサービスとそれ以外の工夫を組み合わせれば、住宅改修に頼らずともある程度環境を整えることも可能です。担当のケアマネジャーや福祉用具レンタル店などと相談すると、きっとよい解決方法が見つかるでしょう。
8. 介護リフォームの事例
トイレの住宅改修
- 筋力が低下すると、便座からの立ち上がりや便座に座る動作は大きな負担となり、転倒事故のリスクが高まります。足の力を補うために、トイレ内に手すりを設置します。手すりにつかまり、手の力で体を支えることで、立つ・座るの動作を安全に行うことができます。
- 和式便器は中腰の姿勢を保持しなければいけないため、足腰に痛みがある人や筋力が低下した人はトイレで用を足すことも困難になります。住宅改修では、和式の便器を洋式に変更することができます。便器を変更することにより、立ち座りの動作の負担が少なくなり、転倒のリスクを少なくすることができます。
トイレの介護リフォームは相談件数の割合が最も多く、利用頻度も高い場所なので優先的に検討することをお勧めします。トイレの介護リフォームに関してはこちらで詳細をまとめています。
浴室の住宅改修
- 浴室は濡れているために滑りやすく、転倒時に体を保護する衣服もないため、重大事故につながりやすい場所です。浴室内での移動や浴槽のまたぎ動作など、大きな動作も必要になりますので、手すりを設置し、安全につかまる場所を確保します。
- 開き戸を折れ戸に変更することで、少ない力で扉の開閉ができ、体をよけながら扉を開ける必要がなくなります。扉の開閉動作にかかる負担が少なくなり、転倒のリスクを軽減することができます。また、開き戸に比べて浴室内のスペースを有効活用することができます。
浴室は滑りやすい環境で転倒リスクも高い場所です。ヒートショックなどの体調変化も起こることから重大事故につながりやすい特徴があります。浴室の介護リフォームについてはこちらにまとめています。
屋外の住宅改修のポイント
- 外の階段・段差に手すりを設置することで外出の不安も少なくなります。外出機会が増えれば、社会参加や介護予防にもつながります。
- 車いすで外出するため、段差をスロープにすることができます。また、大きな段差を小さな段差にするなど、その人に合わせて移動できる環境を整えます。
廊下・玄関の住宅改修のポイント
- 廊下でも手すりをつけることで、手すりを伝いながら安全な移動ができます。廊下だけでなく、階段・リビングなど、安全に移動できる動線を確保しましょう。
- 玄関の上がり框の段差が大きいと、足が上がりにくい高齢者にとっては乗り越えるのが大変です。大きな段差の前に踏み台を設置し、小さな段差を作ります。階段状にし、手すりを設置することで安全に玄関を移動することができます。
このように、リスクの高い場所をリフォームすることにより、自宅を安全かつ快適な空間に変えることができます。
住宅改修を依頼するのであれば、住宅改修のポイントを理解している専門業者を選ぶと安心できます。実績の豊富な介護リフォーム専門住宅改修業者に相談することをおすすめします。
参考文献
*1. 消費者庁 高齢者の事故の状況について-「人口動態調査」及び「救急搬送データ」調査票分析
*2. 消費者庁 「高齢者の転倒・転落事故、こんなところで起きています! 」
*12. 厚生労働省 介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会(第1回)資料 「介護保険制度における福祉用具、居宅介護支援について」P11 、P15
*13. 厚生労働省 介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会(第1回)資料 「介護保険制度における福祉用具、居宅介護支援について」P2
この記事を監修したのは
遠藤 哉
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約120,000件を超える。