この記事を監修したのは
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
遠藤 哉
介護保険で行う住宅改修。工事内容で最も多いのが手すりの取付けです。
どこにどのような手すりをつけるのか、ある程度のプランがまとまった後でこのように尋ねられることがあります。
手すりの色はどれがいいですか?
手すりの「色」なんて、全然考えていなかった、という方はとても多いです。多くの手すり部材メーカーでは複数のカラーラインナップを用意していますので、手すりの色を選ぶことができます。
選んでいいと言われても・・・う~ん、悩んじゃう。
ちなみに、手すりの色だけでなく、金具の色にもカラーバリエーションがあります。もし、手すりの色が3種類・金具の色が3種類のバリエーションだと、3×3で9通りの選択肢があります。どれがいいですか?とだけ言われても困りますよね。
介護リフォーム本舗としてフランチャイズ展開を行う株式会社ユニバーサルスペース代表の遠藤社長に伺いました。
もちろん、手すりも大事なインテリアの一部。目につきやすい場所にもあるため、壁や建具などの色調との調和・バランスを考えた色にすることもひとつの方法です。しかし、手すりの最大の目的は安全性の確保・転倒予防です。より安全な環境の実現を目指すのであれば、色の選択にも注意したいポイントがあります。
【この記事を読んでほしい人】
- 手すりの色の選び方で迷っているご利用者様もしくはご家族様
- いまある手すりが見えにくいと感じているご利用者様もしくはご家族様
- 色の選び方についてアドバイスを提供したい福祉用具専門相談員やケアマネジャー
【この記事で解説していること】
- 多くの高齢者が白内障を患っている
- 視覚がぼやけることにより、壁と手すりの色にコントラストが低いと見えにくく、つかみ損ねるリスクも
- 高齢者の視覚に応じて適切な手すりの色の選択が必要
80歳以上の高齢者のほぼ100%は白内障
白内障とは
白内障は、目の水晶体を構成するたんぱく質が変性することにより、白く濁ったように見える病気です。加齢に伴い、多くの高齢者は少なからず白内障の症状を経験します。原因は加齢によるもののほか、外傷によるものなど原因は様々です。
白内障は、高齢者の中で非常に一般的な眼の疾患です。世界保健機関(WHO)によると、世界の失明原因の第一位は白内障だと報告されています。
※参照:MSDマニュアル:白内障
日本でも白内障罹患率は高く、厚生労働省の統計によれば、高齢者の中で白内障の罹患率は非常に高く、年齢が上がるほどその割合が増加しています。白内障の年間手術件数は1,659,699件(令和1年厚生労働省オープンデータより)。日帰りで手術ができるなどのメリットもありますが、白内障に悩んでいる患者の多さがうかがえます。
自覚症状の有無はありますが、80歳以上の100%は白内障の症状があるというデータもあります。
これらの統計からも分かるように、白内障は高齢者にとって非常に一般的な疾患であり、その影響を受ける方が多いことは明らかです。人によって白内障の程度・重症度は異なりますが、白内障の方の視覚特性を考慮し、手すりの色を選ぶことは、高齢者の安全性を高めるために非常に重要です。
白内障の方の見え方
白内障は、眼の水晶体が濁り、視界が白っぽくなる病気です。これにより、白内障の方の視界には以下のような特性が現れます。
- 視界の白濁: 白内障の方の視界は、水晶体の濁りにより白く濁って見えます。これにより、対象物や景色がぼやけて見え、はっきりとした輪郭が失われます。視界のクリアさが低下し、細かい部分が見えにくくなります。
- コントラストの低下: 白内障の方の視界には、明暗の差が薄れ、色のコントラストが低下する傾向があります。これにより、物体や景色の境界がぼやけ、色彩が鈍くなります。特に光の当たり具合が強い場所では、コントラストの低下がより顕著に現れます。
- 光のまぶしさ: 白内障の方は、光のまぶしさに敏感になることがあります。眩しい光が視界をさらに白濁させ、物体や景色が見えにくくなります。屋外や明るい場所での視界の明るさが特に問題となります。
- 暗所視の低下: 白内障の方は、暗所視が低下する傾向があります。暗い場所では、物体や景色がより見えにくくなり、行動や移動が制限されることがあります。
これらの特性により、白内障の方は日常生活において様々な視覚上の課題に直面します。そのため、環境や設備の調整が必要となります。手すりの色を選ぶ際にも、白内障の方の視覚特性を理解し、安全性と利便性を考慮することが重要です。
危険な手すりの色
白い壁に白い手すりをつけたらどうなるか
白い壁に白い手すりをつけたらどうなるか、画像をAIで作ってもらいましたのでご参照ください。
白内障特有の輪郭の見えにくさ、霞がかった視界、コントラストの低下。白い壁と白い手すりが同化し、見えにくくなっています。どこが手すりの終端なのかも見えにくいため、手すりがそこにあると思っていたのにつかめない、という事故も起きやすくなります。
また、光のまぶしさにより白い手すりが反射して光ってしまうため、さらに見えにくくなっています。これでは手すりの掴み損ねで転倒などの事故が起きてしまうことも理解できます。
白い壁に白い手すり。ヨーロッパ調で洗練されたスタイリッシュな住まいのイメージには適していると思います。ただ、安全性が低ければそれは安心して暮らせる住まいとは言えないでしょう。
手すりの色を変えてみるとどうなるか
そこで、今度は手すりの色をダークブラウンに変更しています。こちらの画像もAIで作成したものです。イメージできたでしょうか。
依然として、全体的に白内障のぼんやりとした視界の見えにくさはあるものの、白い壁とダークブラウンの手すりとの間にはコントラストが確保され、手すりの位置が把握しやすくなりました。手すりの見えにくさによる転倒リスクを軽減するとことができます。
このように、手すりと壁の色に、一定のコントラストを確保することで、白内障の人でも手すりの場所が見えやすくなります。
他にも、手すりの終端に取り付ける金具の色を見やすいものにすることも効果的な方法です。
暗い場所には明るい色の手すりを
明るい場所に明るい色の手すりをつけることでリスクがあるのと同様に、暗い場所に暗い手すりを取り付けることも、一般的には適切な選択とは言えません。暗い場所に暗い色の手すりは視覚上のコントラストを低下させ、利用者が手すりを見つけにくくなる可能性があるからです。
特に、夜間など暗い場合は、照明が不足しており、視界が十分に確保されていないことがあります。このような状況下で暗い色の手すりだと、手すりが壁や周囲の暗い背景と溶け合ってしまい、利用者が手すりを見つけるのが難しくなります。結果として、つかみ損ねや転倒といった事故のリスクが高まる可能性があります。
そのため、暗い場所においては、明るい色や明るい素材の手すりを選択することが推奨されます。明るい手すりは、周囲の暗さとのコントラストを高め、利用者が手すりを容易に見つけることができます。これにより、利用者の安全性を確保し、手すりの役割を十分に果たすことができます。
「色なんてどれも一緒」ではありません。本人にとって安全な生活を送るために、手すりの色の選択は重要な要素のひとつになる場合もあります。
住宅改修に使われる手すりについてはこちらの記事にまとめていますのでご参照ください。
高齢者特有の視覚障害
高齢者特有の目の疾患は白内障だけではありません。その疾患に応じて必要な配慮もあります。
視野欠損がある場合は、視界に手すりが目に入らないこともありますので、目につきやすい場所に手すりがあるといいでしょう。
老人性黄斑変性などは、逆に中心視力が弱くなるのではっきりした色の手すりにすることをお勧めします。
視覚に障害がある人にとって、手すりは在宅生活を送る上で重要な役割を果たします。廊下などを手すりを伝いながら移動することで、目がほとんど見えなくても自分の位置を把握することができ、手すりに沿って安全に目的の場所まで移動することができます。
まとめ
手すりの色を選ぶ際には、高齢者特有の目の病気に対する配慮が欠かせません。
白内障や緑内障、加齢黄斑変性などの病気は、視覚に大きな影響を与えるため、適切な手すりの色を選ぶことが重要です。明るい壁にはコントラストの高い色を、暗い場所には明るい色の手すりを取り付けることで、利用者が手すりを見つけやすくし、安全性を確保します。
安全と快適性を最優先に考えるのであれば、視覚特性に合った手すりの色を選択することをお勧めします。
介護リフォームには介護や高齢者の疾患に対する知識や経験が求められることがあります。
住宅改修・介護リフォームに関しては経験の豊富な専門事業者に相談することで、高齢者特有の疾患やリスクに対応することができます。
この記事を監修したのは
遠藤 哉
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約120,000件を超える。
代表 遠藤哉社長
ご自宅の雰囲気に合わせて手すりを取り付けることで、全体的な調和を持たせることはとても大事です。
ただ、それだけではなく、手すりの「色」にも住宅改修の効果を最大化させるヒントがあります。利用者様によって異なる「見え方」にも配慮した色の選択が必要です。