扉の介護リフォームで安全な開閉動作を実現。引戸への変更だけじゃない、ドアから変わる日常生活。

引戸への交換だけじゃない!扉の介護リフォーム 住宅改修
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役 遠藤哉

この記事を監修したのは

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士

遠藤 哉

日常生活の中で、扉は住宅に欠かせない要素ですが、高齢者や身体的制約のある方にとっては大きな困難となることがあります。

扉に関連するトラブルが、予想以上に深刻な影響を及ぼすものとなり得ます。ここでは、扉の開閉にまつわる様々な問題に、介護リフォームを通して対処する方法をご紹介します。介護保険の活用方法も併せてご紹介し、日常生活での扉にまつわるトラブルを軽減するヒントを提案いたします。

【この記事を読んでほしい人】

  • 扉の開け閉めが大変だと感じている方
  • 前後にバランスを崩すことが多く、転倒の不安を感じている方
  • 住宅改修の提案を考えているケアマネジャーさんや福祉用具相談員さん

【この記事で解説していること】

  • 扉の開閉で起こりうる転倒のリスクについて
  • 扉を変更する介護リフォーム
  • 扉を開けやすくする介護リフォーム

扉が生活の障害になるとき

扉開閉時の転倒リスク

扉はスペースとスペースを分ける境界として存在します。それに加えて、プライバシーの確保、照明や空調のコントロールなど、様々な役割を果たします。住宅は多くの扉・ドアで区切られています

そんな重要な役割を果たす扉ですが、移動するための開閉が困難になる場合もあります。加齢や疾患、障害のために扉に関連した様々なトラブルが起きます。

  • 開き戸を引いたときに体を避けようとして後方にバランスを崩して転倒した
  • 開き戸を押したときに手がドアノブから離れずに前のめりに転倒した
  • ドアノブが袖に引っかかり転倒した
  • 病気のためにドアノブを掴めなくなった・回すことができなくなった
  • 引き戸が重くて動かせなくなった

上記に示したように、扉に関する様々なトラブルが発生し、大きな事故につながるリスクもあります。

介護保険の住宅改修というと手すりの取付というイメージが強いのですが、保険対象の工事は手すりだけではありません。介護保険では扉での事故や日常生活上の困難を避けるため、扉を変更する住宅改修も認められています。

リフォームを通して扉を安全に移動できるようにし、事故のリスクを軽減、より安全で快適な生活を実現することができます

介護保険の住宅改修でできること

介護保険制度では要介護・要支援認定を受けた方を対象に、住宅改修を利用することが可能です。介護保険の住宅改修では20万円分の工事費用の補助を受けることができ、自己負担は所得に応じて1~3割となっています。

扉の変更に関しても、介護保険の住宅改修の対象になっているものがあります。

住宅改修対象項目一覧

4.引き戸等への扉の取替え がそれに該当します。

項目としては、「引き戸等への扉の取替え」となっています。対象になるのは引き戸への変更だけ?と勘違いしてしまいそうなところですが、引き戸への交換だけでなく、扉に関して様々なパターンのリフォームが可能です。

※自治体によって取り扱いが異なる場合もあるため、事前に市町村の担当部署等への確認をお勧めします。

扉を変更する介護リフォーム

扉の変更パターン

扉を変更するパターンについて紹介します。日本の住宅で現在最も多いのは開き戸です。以下の東京都が調査したデータによると、圧倒的に開き戸が多いことがわかります(*1)。

  • 玄関ドア:開き戸=94.6%、引戸=5.0%
  • 室内ドア:開き戸=76.2%、引戸=22.4%、折れ戸=1.1%
開き戸

開き戸は設置しやすく気密性や防音性が高いことから多くの住宅で採用されています。しかし、既に紹介したように、扉を開くときにドアノブを持ったまま一歩前に出る、もしくは一歩後ろに下がるという動作が必要になり、そこで前後のバランスを崩し、転倒につながるリスクがあります。例えば、パーキンソン病の方などはすくみ足があるため、扉を開ける際に同時に足を引いて体を避けるという動きが困難で、後方にバランスを崩す恐れがあります。

このような事故を防ぐために、開き戸を別の種類の扉に変更する介護リフォームで安全性を高めることができます。

介護保険を使って開き戸を変更するパターンをいくつか紹介します。

開き戸から引戸への変更

引戸

まずは開き戸から引戸への変更です。

引戸は開き戸とは異なり、その場所に立ったまま、手を動かすだけで扉を開閉することができるのがメリットです。開き戸のように前後にバランスを崩すことはなく、よりシンプルで、安全な開閉動作が可能になります。力を入れることができないという方にとっても有効な手段です。

特に車いすで移動される方にとっては非常に便利です。狭い住宅内で車いすで開き戸を開くために体を避けなければいけないというのは大きな負担となり、転倒事故を引き起こす原因ともなります。車いすでの開閉に関してはその場から動かずに開閉ができる引戸が特に優れています。

引戸のデメリットとしては、扉の引き込まれるスペースや壁が必要になり、どこにでも設置できるわけではないということです。また、開き戸と比べて気密性が劣るというデメリットもあります。また、扉を開いたときに取っ手部分は引き込まれず残るため、全開時の開口部が若干狭くなることにも注意が必要です。車いすで移動することを考えると最低有効開口部は交通バリアフリー法で示されている90㎝以上と念頭に置いておきましょう(*2)。

また、引戸は床にレールの付いた敷居があり、そこにわずかな段差が生まれます。もし段差が支障になるのであれば、上吊り引き戸にすることで敷居をなくし、床面をフラットにすることができます。

もちろん引戸であれば必ずしも安全かというとそうではありません。開き戸と違って前後の重心移動はないものの、左右の重心移動が大きくなれば転倒のリスクも高まります。扉の開閉・移動にはリスクがあることを意識して住環境を見直しましょう。

開き戸から折れ戸への変更

浴室折れ戸

開き戸から折れ戸に変更するのも介護保険の対象となります。このパターンの工事は浴室の扉変更でよく行われています。

浴室の扉は内開き戸になっていることが多いです。浴室の内開きの扉は脱衣所側でなく浴室側に向かって開きます。浴室から出るときには、扉を手前に引かなければいけません。浴室はスペースが狭く、体を避ける場所も限られるため、バランスを崩して転倒することが非常に多いです。

特に、以下のような場合にはリスクが高まります。

  • 洗い場にシャワーチェアなどがあり逃げ場がない
  • 介助者が一緒に浴室内に入っていてスペースがない
  • 床面が濡れて滑りやすくなっている

このような状況で扉を引きながら体を避けるという動作はリスクが非常に高いです。

引戸にしようとしても、浴室や脱衣所などには扉を引き込むスペースがない場合が多く、引戸を設置するためには大掛かりな工事が必要になります。

そこで、開き戸を折れ戸に変更することで扉開閉のリスクを少なくすることができます

ただ、折れ戸にしても後方に扉を引く動作が必要になることもあり、引戸と比べると開くときに若干力を入れることが必要になるなど、開閉動作が難しいというデメリットがあります。より安全な開閉動作をするためには、扉の付近に手すりなどつかまる場所を確保しておくことが望ましいでしょう。

浴室の住宅改修についてはこちらの記事が参考になりますので、ご参照ください。

浴室の扉を開き戸から引戸にした事例

開き戸をアコーディオンカーテンに変更する

扉をアコーディオンカーテン(アコーディオンドア)にすることも扉の交換として介護保険の対象になります。

アコーディオンカーテンは扉が蛇腹状の構造になっている間仕切りの一種です。引戸同様、前後に体を移動することなく開閉ができます。

ただ、通常のドアと異なり、構造上、気密性や防音性が低いことなどから、完全にスペースを分けるというよりも空間の簡易的な仕切りという使い方が多いです。また、蛇腹状に端まで折りたたんだとしてもアコーディオンカーテンの厚みが残りますので、開口部分は扉の枠よりも狭くなるので注意しましょう。

間口を拡張する

入口が狭く、車いすが通れない場合、間口を広く拡張することができます。間口を広げて引戸にするか、引戸にできなければ大きな開き戸にするリフォームでも住宅居改修の対象となります。

扉を撤去する

状況によっては、そもそも扉をなくしてしまうことも介護保険で認められています。扉をなくすことで気密性や防音性はゼロになりますが、障害はなくなり、開口部を広くすることもできますので、移動のしやすさという意味では格段に上がります。扉を外すという選択肢もあると覚えておきましょう。

扉を変更することで対応する方法について説明しました。開閉方法を変えるだけでも移動の安全性や生活の快適性は大きく変わります

今ある扉を使いやすくする介護リフォーム

既存の扉をもっと使いやすく、開閉操作しやすくする介護リフォームもあります。

ドアノブを変更する

ドアノブ

普段何気なく扱っているドアノブ。ただ、実際は非常に高度な作業を行っています。いわゆる握り玉と呼ばれる金具を片手で握り、つかんだまま手首を回転させてラッチと呼ばれる突起部分を押し込ませ、ドアノブを握ったまま立位バランスを崩さないように注意しながらドアを後方に引く。このように非常に繊細な動作を連続して行っています

疾患などの問題によりこのような動作が困難な方もいます。

  • 関節リウマチの方は指先に力を入れることで痛みがあるためドアノブを掴んで回すことが困難です。
  • 握力が低下している人はドアノブを掴んだままひねるという動作が困難になります。
レバーハンドル

そこで、ドアノブ(丸ノブ=握り玉)をレバーハンドルに変更することをお勧めします。レバーに手をかけて下に押し下げるだけでドアを開くことができます。レバーハンドルにもいろいろな種類があるので握りやすいもの、トイレ用に内カギが付いたものなど、様々なタイプがあります。

これも介護保険の住宅改修の対象となります。扉自体は開き戸のままでも、開閉を楽にすることができます。

もし賃貸住宅などで住宅所有者の許可が下りず、リフォームで交換することができない場合でも、握り玉にハンドルレバーを取り付ける自助具・介護用品も市販されています。代用できるアイテムを使うのもひとつの解決策になります。

関節リウマチなどの疾患からドアノブを回せないという方、もしくは支援されている方はこの記事をご参照ください。

吊元を変更する

蝶番

多くの開き戸は片開き戸といって、扉のどちらかが蝶番で固定されていて、左右の片側しか開きません。扉を利用する人の動線上、回り込まなければいけないことや、反対側から開けにくいという状況が起こります。そこで、蝶番をドアの反対側につけ直し、左右反対側からドアを開けられるようにします。これを吊元変更と言います。

ドアを交換するわけではなく、使っているドアをそのまま使えるので、外観を損なうこともありません。これも本人の生活動作改善につながるリフォームであれば、介護保険住宅改修の対象となります。

引戸に戸車をつける

引戸が重くて開かないということもあります。筋力の低下でこれまでは簡単に開けることができていた扉が動かせないという場合には、引戸に戸車をつけることができます。戸車とは、ドアの下部に取り付ける車輪状の装置で、戸車をつけることでレールや敷居の上を扉がスムーズに動くようになり、扉の開閉が楽になります。

これも介護保険の住宅改修対象工事となります。ただし、引戸の老朽化などの理由で扉が開かない場合は住宅改修の対象とならないので気を付けましょう。

ここまで介護保険対象の工事を紹介させていただきました。ここからは介護保険対象外の扉のリフォームを紹介します。

ドアクローザーを設置する(介護保険対象外)

ドアクローザー

ドアクローザーはドアの上部に取り付ける装置で、油圧によってドアが閉まる速度を調整することが可能です。ドアクローザーがあれば、手を離してもドアがゆっくり閉じてくれます

ドアを開けたら閉めなければいけないのですが、閉める動作でも前後にバランスを崩すリスクがあります。ドアクローザーを使って自動でドアを閉まるようにすることも転倒予防のための解決策となります。また、ドアクローザーを設置していればドアは閉まっているので、ドアが開きっぱなしになっていて通行の妨げになるということもありません。

介護保険住宅改修の対象には含まれませんが、安全性を高めるための効果的なリフォームのひとつです。

自動ドアを設置する(動力部分は介護保険対象外)

上肢に問題がある場合や、車いす上で開閉を行うことが困難など、ドアの開閉自体ができないという場合もあります。解決策としてドアを自動ドアにする方法もあります。開閉の動作そのものをしないでも入退室ができるというメリットがあります。

商業施設などで使われる自動ドアではなく、後付けで装置を設置し、既存のドアを自動ドアにする方法もあります。玄関ドアなどは多くの人が触れるため、感染予防の観点からも非接触で入退室ができるというメリットもあります。

動力部分は介護保険の対象外となっています。ただ、重度障害者を対象にした自治体独自の助成金が活用できる場合もありますので、まずは相談をお勧めします(*3)。

ただ、タイミングが間に合わずドアが自動で閉まってしまうためにぶつかって転倒してしまうことや、挟み込まれてしまうこと、急ごうと焦ってしまい転倒するなどの危険もありますので、移動能力などを踏まえて検討しましょう。

まとめ

扉の変更に関する介護リフォームの情報を紹介しました。

ちなみに、ケアマネさんが住宅改修の理由書を作成するのに、書き方で迷うという声をよく聞くのが扉の交換。扉の交換のメリットや効果を言葉で伝えるのって慣れていないと難しかったりしますよね。

こちらの記事で扉の交換の理由書の書き方をまとめていますので、ケアマネさんや福祉用具相談員さんはぜひご参照ください。

介護リフォームを検討する場合は動線上の各部屋の扉についても確認しておくといいでしょう。何気なく行っている扉の開閉という作業も高齢者や障害を持った方にとっては大きなリスクであることを意識し、安全な生活環境にしていくことをお勧めします。

住宅改修の制度や流れなどの解説はこちらの記事をご参照ください。

参考資料

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役 遠藤哉

この記事を監修したのは

遠藤 哉

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士

大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約120,000件を超える。