この記事を監修したのは
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
遠藤 哉
手すりは、移動動作を安定するための重要な設備です。ただ、その取り付け方や設置に関する問題があることも。実は、ご自宅で生活している方から以下のような相談を受けることも少なくありません。
腰を痛めてから階段を上り下りすることが大変になって。昔、息子が階段につけてくれた手すりがあるけれど、ちゃんと柱に固定されていないみたいで、つかむとグラグラする。素人がつけたものだからしょうがないのかもしれないけれど、このままだと危なくて使えない。
私は膝関節症で、段差を上り下りするときには膝に負担がかかってとても痛いの。うちにも階段についている手すりがあるんですけど、太すぎて握ることができません。高さも高すぎて掴みにくい位置にあるし、手すりがあっても役に立たないので困っています。
このように、既に自宅についている手すりが手すりとしての機能を果たせない、と悩んでいる方がいます。介護保険の住宅改修を利用して、手すりを付け直してもらうことはできるのでしょうか?
株式会社ユニバーサルスペースの代表取締役、介護リフォーム本舗として100店舗を超える店舗のフランチャイズの代表をされる遠藤哉社長に伺いました。
この記事では、既存の手すりに関するトラブルに焦点を当て、介護保険の活用や問題の解決策についてご紹介します。既存の手すりに関する不安や課題を解決するための方法を探りましょう。
既存の手すりの問題と介護保険の活用
不適切な手すりの問題
既存の手すりがご利用者様本人にとって機能していない事例は少なからずあります。いくつか例を紹介します。
- 手すりの太さが太すぎて握ることができない。
- 手すりの位置が高すぎて届かない・力を入れて持つことができない。
- 手すりが短すぎて本来必要な場所でつかむことができない。
- 手すりが柱に固定されていないのでグラグラする。
このような場合、手すりがあっても不適切な状態であり、本人の移動・動作を助けることができません。
手すりが太すぎるとどうなる?
特によく起きるのが手すりの太さの問題です。
昔は存在感のある太い手すりが住宅に使われることも少なくありませんでした。なぜかというと、昔は手すりの強度を強くするために、手すりの太さを太くしなければいけなかったからです。もちろん、デザイン性で太い手すりが好まれるという場合もありました。
ただ、現在は太さ直径35~32mm程度の手すりが使われることが一般的で、強度も問題なく使用ができます。手すりが太すぎると、横に伝って歩くこと自体はできますが、バランスを崩した時や、昇降動作などが必要な時にしっかりと握ることができません。特に手のサイズが小さい女性は余計につかむことが困難です。
このような不適切な状態の手すりは、あっても本人の自立支援につながることはなく、役に立ちません。
事情があれば、介護保険の住宅改修で手すりを付け替え・交換することができます。介護保険を使って、ご本人の身体状況にあった手すりに交換することをお勧めします。
手すり交換の注意点
手すりの交換が認められない場合
介護保険で手すりの交換ができる。とはいっても、どんな場合でも認められるわけではありません。
ご本人の身体状況などに関して、手すりの交換が必要な場合に限られます。つまり、以下のような場合には介護保険での手すり交換が認められません。
たとえば川崎市の住宅改修Q&Aにはこのように記載があります。
手すりの取付け | 以前に設置した手すりが老朽化したことから、その手すりを撤去し、新たに手すりを設置する工事は、住宅改修の対象となるか。 | 単なる老朽化の場合は、住宅改修の対象とはならないが、壁の老朽化により手すりが使用できなくなった場合等、老朽化によって使用に耐えかねるような場合には、壁の下地補強と設置の工事については、住宅改修の対象となる。 なお、既存の手すりを身体状況に合わせて付け替える場合には、住宅改修の対象となる。 |
このように、単なる老朽化の場合は住宅改修の対象とはなりません。
手すりを使用する上で問題があるかどうか、が重要なポイントになります。
適切な手すりの取付方法
手すりを交換する場合、今度は本人にあった手すりを設置しなければいけません。本人の身体状況や普段の動作をよく確認し、適切な手すりを設置しましょう。手すりの長さや角度、高さなど、どんな設置方法が本人の能力を一番生かすことができるのかを検討しましょう。
手すりの取付についてはこちらの記事に詳しく掲載していますので、あわせてご確認ください。
手すりの場所を変更したい・移設したい
手すりの変更パターンとして、手すりの設置場所を移設するというケースもあります。
もともと手すりがついていたけれど、身体状況の変化で手すりの位置が合わなくなる場合もあります。たとえば、こんな場合が考えられます。
- 関節拘縮の影響で肩や肘が伸びず、手すりを掴みたいのに届かない
- 円背が進み、常時前傾姿勢で歩いているため、既存の手すりでは位置が高すぎる
このような場合には、手すりの位置を変更する「移設」が介護保険で可能です。既存の手すりを取り外して、その手すりと金具の場所を必要な場所に移す工事が行われます。手すり本体や金具自体に問題がなければ、手すりの位置を移動し、そのまま同じ部材を活用することができるので、部材にかかる費用を削減することができます。
もちろん、移設することで自立支援に効果を発揮するためには、本人の動作や力の使い方を見極め、適切な位置に手すりを設置することが重要です。
専門家に相談を
問題のある手すりが設置されている家庭は少なくありません。原因として、工務店やリフォーム業者には、介護が必要な方に適した手すりについて十分な知識がないことが挙げられます。また、一般的な基準に合わせて手すりを設置しているものの、本人の状態に当てはまらないという場合もあります。それだけ介護リフォーム・住宅改修では個別性の高い対応が求められると言えます。
いま手すりがついているけれど、使いにくい、困っている、という方はぜひ専門家に相談してみましょう。自宅での生活を続けられるように環境を整えることが重要です。
介護保険の住宅改修の手続きなどについてはこちらの記事をご参照ください。
この記事を監修したのは
遠藤 哉
株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役
資格:一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士
大手ハウスメーカーを経て、2009年に株式会社ユニバーサルスペースを創業。介護リフォームに特化し、「介護リフォーム本舗」として全国100店舗超を展開している。チェーン全体での介護リフォームの累積工事件数は約120,000件を超える。
遠藤社長
手すりは「ただあればいい」というものではありません。ご利用者様に合わせて、適切な位置・適切な太さで設置されたものでなければ意味がありません。
古い手すりがあるけれど問題があって使えない。そんな場合でも介護保険の住宅改修は対象になります。古い手すりを撤去して、新たにご利用者様にあった適切な手すりを設置することができます。
既存手すり分の撤去・処分にかかる費用も、手すり取付の付帯工事費として介護保険で認められます。