手すりの高さ、正解は〇〇cm!?基準の考え方と本人に合わせた設定法とは?

手すりの高さの正解は〇〇cm? 住宅改修

介護リフォームで手すりを取り付けるとき、よく聞かれるのが「高さは何cmが基準ですか?」「どのくらいの高さが基本ですか?」という質問です。

インターネットで調べると、手すりの高さは75cmが基準という説、80cmが最適だという説、杖の高さに合わせる説、大転子と呼ばれる腰の横の骨の出っ張りに合わせる説、本人が握りやすい高さにするなど、いくつかの考え方が出てきます。

結論から言うと、手すりの高さは「一律〇〇cmにすれば正解」というものではありません。

本人の身長だけでなく、歩行状態、姿勢、関節の痛み、握る力、手すりを使う場面を見ながら高さを決めることが大切です。

この記事では、手すりの高さの基準と、実際に高さを決めるときの考え方を整理します。

手すりの高さは「75cm」が標準といわれていたのはなぜ?

実は、これまで、手すりの高さの基準は「75cm」と推奨されてきました。

これは、国土交通省の「長寿社会対応住宅設計指針の補足基準」でこう書かれていたためだと言われています。

廊下、階段、洗面所、居間・食事室及び高齢者等の寝室の移動のために設ける手すりの設置高さは、床仕上面(階段の場合は段鼻)から75㎝を標準とする。
国土交通省「長寿社会対応住宅設計指針の補足基準:Ⅰ 指針第2(住宅(集合住宅の場合は住戸専用部分)の設計指針)について」より

ただ、現在の現場感覚では、75cmはかなり「低め」と理解されることが多いと思われます。「国が決めた標準が75cmだから、すべて75cmで取り付けましょう」と進めることはあまりありません。少なくとも、本人の動作確認をせずに75cmで決めるのは避けたいところです。

特に廊下や階段のように、立って移動するときに横手すりを使う場面では、80cm前後をひとつの現実的な目安にしながら、本人によって85cm前後まで含めて検討することがあります。

ではなぜ、75cmという基準は使われなくなったのでしょうか。

高齢者の体格は変わっている。だから75cmは正解ではない

実は、長寿社会対応住宅設計指針は平成7年に示されたもので、現在から見るとかなり昔につくられた基準です。
日本人の体型もこの時間の経過とともに大きく変わっているのが現実です。

国立健康・栄養研究所の国民健康・栄養調査再集計データを見ると、70歳以上の平均身長は、平成7年にあたる1995年から2023年にかけて上がっています。

1995年2023年増減
男性 70歳以上159.1cm164.0cm+4.9cm
女性 70歳以上145.3cm149.9cm+4.6cm
男性 75~79歳158.8cm164.5cm+5.7cm
女性 75~79歳144.8cm150.1cm+5.3cm

国立健康・栄養研究所「健康日本21分析評価事業 / 国民健康・栄養調査 / 身体状況調査」より

これを見ると、男女とも、高齢者の平均身長はおよそ5cm以上、上がっているということがわかります。調査年ごとの対象者数や年齢構成の違いはあります。それでも、現在の高齢者は、指針が作られた頃の高齢者より平均的には大きくなっていると見てよいでしょう。

そう考えると、移動用手すりを一律に75cmで考えるのは、今の利用者には低めに寄りすぎる可能性があります。これは、現場で75cmという基準が採用されなくなった理由のひとつです。

基準が作られた頃より、現在の高齢者の平均身長が5cm近く高くなっているのであれば、手すりの高さを高めに設定するのは自然な考え方で、現在の介護リフォームでは、75cmより80cm前後で検討するほうが自然です。

ただ、だからといって、一律80cmが正解かというと、その考え方も現場では適していません。

「〇〇cmが基準なので、〇〇cm」とするのではなく、本人の体格と動作を見ながら、一般的には80cm前後を中心に75〜85cm程度の幅をもって考えることが求められます。

杖の高さや大転子を基準にする考え方

手すりの高さを考えるとき、杖の高さを参考にすることがあります。

杖の高さには、一般的にいくつかの合わせ方があります。

  • 腕を自然に下ろしたときの手首の高さに合わせる
  • 腰の横の骨の出っ張りである大転子の高さに合わせる
  • 杖先を足の小指の外側に置いたとき、肘が軽く曲がる高さに合わせる

これらは、杖を使って歩くときに、肩や手首へ余計な負担をかけず、体重を支えやすくするための考え方です。

廊下の横手すりも、歩行を支えるという意味では杖と近い役割を持つため、同じような基準で、杖の高さや大転子の高さが参考になることがあります。

ただし、杖と手すりは同じではありません。

杖は本人の体と一緒に移動します。一方、手すりは壁や柱に固定されていて、本人が手を伸ばしてつかみに行きます。
杖の場合は、床に接地する点と手で持つ位置が離れ、歩くときは杖を体の横やや前方、斜め前につくので、単純な垂直距離だけで考えると力を入れるポイントでの感覚にずれが生じます。

そのため、杖の高さや大転子の高さは「候補」にはなりますが、それだけで決めてしまうのは危険です。

実際には、本人にいつもの室内履きを履いて立ってもらい、歩く、方向転換する、立ち上がる、段差を上がるといった動作を見ながら、無理なく手が届くか、肩が上がりすぎないか、体が前に倒れすぎないかを確認します。

高すぎる手すりで起こりやすいこと

手すりが高すぎると、肩が上がり、腕に力が入りにくくなることがあります。

特に筋力が落ちている方や、肩関節に痛みがある方では、高い手すりをつかもうとして肩や首に負担がかかります。手すりに体重を預けたいのに、腕が突っ張ってしまい、かえってバランスを崩すこともあります。

また、手すりが高いと、体の重心が上に引き上げられるような使い方になりやすく、足元が不安定な方では歩行がぎこちなくなる場合があります。

低すぎる手すりで起こりやすいこと

反対に、手すりが低すぎると、体が前かがみになりやすくなります。

手すりをつかむたびに腰を曲げるような姿勢になると、歩行中に視線が下がり、足元や進行方向の確認がしにくくなります。腰痛がある方では、低い手すりを使うことで腰への負担が増えることもあります。

円背の方の場合、もともと前かがみの姿勢になりやすいため、低い手すりに合わせると、さらに背中が丸まり、歩幅が小さくなることがあります。

ただし、円背だから必ず高くするという単純な話でもありません。高くしすぎると肩が上がり、手すりにうまく体重を預けられないことがあります。本人が自然に立った姿勢と、実際に歩く姿勢の両方を見る必要があります。

本人の感覚は大切。ただし「握りやすい」だけで決めない

手すりの高さを決めるとき、本人の感覚はとても大切です。

実際に使うのは本人です。80cmが正しく見えても、本人が「高くて怖い」「低くて使いにくい」と感じるなら、その手すりは日常生活の中で使われなくなる可能性があります。

一方で、本人の感覚だけで決めるのも注意が必要です。

たとえば、長年低い位置の家具や壁に手をついて歩いていた方は、低めの手すりに安心感を覚えることがあります。しかし、その高さが転倒予防として本当に安全かどうかは別です。

また、痛みや恐怖心が強い方は、必要以上に高い位置を希望することもあります。高い位置につかまると安心するように感じても、実際には肩が上がり、足が出にくくなっている場合があります。

本人の感覚は尊重しつつ、専門職が歩行状態や姿勢を確認し、「楽に感じる高さ」と「安全に動ける高さ」の両方から判断することが大切です。

大切なのは「何cmか」より「どう使う手すりか」

手すりの高さを考えるときは、まず「その手すりをどう使うのか」を分けて考える必要があります。

同じ手すりでも、使い方はひとつではありません。

  • 手で握って体を支える
  • 手のひらで押して支える
  • 肘や前腕を載せて上半身を支える
  • 立ち上がるときに一時的に体重を預ける
  • 階段で体を引き上げる、または下りるときに体を制御する

この使い方が違えば、適切な高さも、太さも、形状も変わります。

つまり、手すりの高さは単独で決めるものではありません。本人の身体状況と、手すりの使い方をセットで考える必要があります。

身体状況別に見る、手すりの高さと形状の考え方

手すりの高さや形状は、症状や動作の特徴によって考え方が変わります。ここでは代表的な例を見ていきます。

円背の方

円背の方は、背中が丸くなり、視線が下がりやすい傾向があります。歩行時に体が前へ倒れやすく、手すりに頼りながら姿勢を保つ場面も少なくありません。

この場合、丸棒の手すりを手で握って歩くというより、肘や前腕を手すりに預けて上半身を支えるように使う方もいます。いわゆる前腕支持に近い使い方です。

この使い方を想定するなら、一般的な横手すりの80cm前後では低すぎることがあります。低い位置に前腕を載せようとすると、さらに前かがみになり、歩幅が小さくなったり、体が前へ流れたりすることがあるためです。

肘や前腕で支える平手すり、アームレールのような使い方では、90〜100cm程度が目安になる場合もあります。もちろん、実際には本人の身長、円背の程度、肩の可動域、歩く場所によって調整します。

確認したいのは、手すりを握ったときだけではありません。前腕を載せたときに、肩がすくまないか、体が手すりから離れすぎないか、前かがみが強くならないか、歩幅が極端に小さくならないかを見ます。

円背の方では、「低めの丸棒手すり」よりも、「少し高めで面として支えられる手すり」のほうが合うことがあります。廊下では横手すり、玄関や段差では縦手すり、場合によっては前腕支持できる平手すりを組み合わせることで、姿勢を立て直しやすくなることもあります。

リウマチや手指の痛みがある方

関節リウマチなどで手指や手首に痛み、変形、握力低下がある方は、手すりをしっかり握ること自体が難しい場合があります。

このような方に、一般的な丸棒の横手すりを標準高さで付けても、十分に使えないことがあります。

ポイントは「握る手すり」ではなく「支える手すり」として考えることです。

肘や前腕を乗せて支える使い方が多い場合は、通常の手すりより高めの位置が使いやすいことがあります。また、細い丸棒よりも、上面が平らな手すりや、太めの手すり、前腕を置きやすい形状が適する場合もあります。肘で支える平手すりでは、90〜100cm程度を目安として検討することもあります。

小柄な方・身長が高い方

身長が大きく異なる場合も、80cmが合わないことがあります。

小柄な方にとって80cmの設定の場合、肩が上がりやすくなります。身長が高い方にとって80cmが低すぎると、前かがみになりやすくなります。

ただし、身長だけで判断しないことが大切です。本人の姿勢や動き方などを見て、自然に扱える高さ・力の入れやすい高さを意識する必要があります。

認知症や視覚低下がある方

認知症や視覚低下がある方では、手すりの高さだけでなく「見つけやすさ」「触れやすさ」「連続性」も重要です。

手すりの位置が途中で途切れていたり、高さが急に変わったりすると、使い方が分からなくなることがあります。

この場合は、壁や床との色の違いをつける、動線に沿って手すりを連続させる、必要な場所に縦手すりを追加するなど、高さ以外の工夫も合わせて考えます。

階段の手すりの高さの設定は

階段の手すり高さを考えるときは、廊下のように床から測るのではなく、段鼻からの高さで見ます。段鼻とは、階段の踏み面の先端部分のことです。

階段には直線のいわゆる鉄砲階段や廻り階段など様々な形状があり、足を置く位置が一段ごとに変わります。そのため、床面から一律に測ってしまうと、上り下りの途中で手すりが高く感じたり、低く感じたりしやすくなります。段鼻を基準にすることで、各段に立ったときの身体と手すりの関係をそろえやすくなります。

階段の手すりは、単に手を添えるだけのものではありません。上るときは、身体を前上方へ引き上げるために使います。下りるときは、身体が前に流れすぎないように制御する役割があります。そのため、低すぎる手すりでは、前かがみになりやすかったり、腕に力が入りにくかったり、下りで身体を支えにくかったりすることがあります。

階段でも段鼻から80cmの高さを設定する場合が少なくありませんが、円背が強く前かがみの姿勢になりやすい方、下りで不安定になりやすい方にとっては、80cmより少し高めのほうが使いやすい場合もあります。

一方で、高くすれば必ず安全になるわけではありません。肩が上がりすぎる高さ、肘が伸びきってしまう高さ、握ったときに身体が手すりから離れすぎる高さでは、かえって力が入りにくくなります。

そのため階段の手すりは、数字だけで決めるのではなく、実際に本人が階段を上り下りする動作を見ながら決めることが大切です。上りで引き上げやすいか、下りで身体を制御しやすいか、片手で握れるか、反対側にも手すりが必要か。こうした点を確認しながら、本人に合った高さと位置を調整します。

高さを決めるときの実務チェック

手すりの高さを決めるときは、次のような点を確認します。

  • 本人が普段履く靴や室内履きで立っているか
  • いつもの姿勢で手が自然に届くか
  • 肩が上がりすぎていないか
  • 肘が伸びきっていないか、曲がりすぎていないか
  • 手すりを使ったときに歩幅が小さくなりすぎないか
  • 上りだけでなく下りの動作も確認したか
  • 立ち上がり用と歩行用を分けて考えているか
  • 握る力、手首や指の痛みを確認したか
  • 家族や介助者の動線を妨げないか
  • 将来の状態変化に対応できるか

特に大切なのは、本人の動きを実際に見ることです。

「身長が何cmだから手すりは何cm」と決めるより、本人がいつもの生活動作をしたときに、どこで不安定になるか、どの高さなら安定するかを見るほうが、実際の安全につながります。

まとめ

手すりの高さに、「一律〇〇cm」という統一された正解はありません。

国土交通省の長寿社会対応住宅設計指針の補足基準では75cmが標準とされていますが、現在の介護リフォームの現場では、75cmはかなり低めとみられ、実際には80cm前後から検討される傾向にあります。

杖の高さ、大転子の高さ、本人の握りやすさは参考になりますが、最終的には本人の歩行状態、姿勢、痛み、握力、使う場所、使う動作を見ながら決める必要があります。

円背の方、リウマチで手指に痛みがある方、片麻痺の方、膝痛や股関節痛がある方では、適切な高さや手すりの形状が変わります。

介護リフォームで大切なのは、基準に合わせることだけではなく、本人の暮らしに合わせることです。

そのためには、手すりを「握る」のか、「押す」のか、「肘や前腕で支える」のかを見極める必要があります。ここを間違えると、高さだけでなく、手すりの種類そのものが合わなくなります。

介護リフォーム本舗では、住宅の形だけでなく、本人の身体状況や日常生活の動作を確認しながら、手すりの高さ、位置、形状を検討します。

手すりの高さで迷っている場合は、まずは本人がどのように立ち上がり、歩き、支えているのかを一緒に確認するところから相談してみてください。